正義と悪(正義の正逆位置)

「眠れ、屍の如く!」

「何を騒いで居るのかと思ったら……一体何を言っているんだ?」


 正義と悪は紙一重、人によっては正義となる行為でも、ある人によっては悪となりうる事もある。どちらが正義でどちらが悪か……それらを正しく判断することは難しい。


「出たなインスピレーションマダム! 我僕達に永遠の眠りを与えてやるところだ!」

「……要するに、昼寝をするのだな。ぬいぐるみ達と共に」

「これでまた僕達は力を手にするのだ!」

「……昼寝をする事で疲労を回復させられると言いたいのだな」


 正義の反対は悪、悪の反対は正義……そんな安直な基準では言い表せない者達がここにいる、それが彼女達だ。


「流石はインスピレーションマダム、我の言葉を理解できるとは大した奴だ」

「これでも、相対する存在であるからな。貴公の事は大方把握しているつもりだ、解釈に誤りがあった場合は指摘してくれるといい」

「ほう、我に教えを求めるか。実に愉快な事よ。して、貴様が手に持つ魔導書は何を意味する?」

「嗚呼これか、主に伝えることを記したものだ。主は我々と関わりを持って日が浅い、故に不安事も多いことだろう。そういった負担を少しでも減らせたらと思ってな……俗に言う、お節介だ」

「何と……冥界の女王への生け贄か!」

「生け贄とは心外だな、せめて捧げ物にしておいてくれ」


 今突っ込むところそこ? って思った方は正常ですので御安心を。ちなみに冥界の女王というのは、主である私の事らしい。


「貴公は主をどう見ているのだ? やはり健気な娘だと思うか?」

「冥界の女王は名に相応しき力を秘めている……覚醒すれば世界を破滅させるなど容易くなるだろう! 何とも恐ろしき者よ……!」

「……要するに、尊敬しているのだな。確かに主は秘めた力を持っている。今はまだ完全には発揮されていないが、この先身に付ければ大いに活躍できるだろう」

「然し、力は特に毒になる。世界は冥界の女王の生を許さない。必ずや仕留めに来ることだろう……何と恐ろしき運命であろうか!」

「その可能性は大いにある……だが、それを防ぐのが我等の使命なのではないか? 我等が主の傍に常につき、様々なことを教えることで防ぐことが出来るかもしれない……自信は無いがな」


 私の身を案じてくれる正義さんには、不安なことがあった。それは今後私が彼女達の存在を否定してしまうこと。

 彼女らの存在は私が居てこそ成り立つ存在のようで、私が居なくなるか彼女達を否定してしまえば、忽ち消滅してしまうらしい。そうなれば、二度と私を助けられなくなる……楽しい話も辛い話も聞いてあげられなくなってしまう……それが何よりも心配なのだという。


「何を懸念している! 冥界の女王は常に前を向く、我らと共に永遠を求め、僕達を従え世界への宣戦布告を繰り返し唱えるのだ! 

そのような者がそう易々と滅びるものか! 我が認めし冥界の女王は、我が生涯をかけて守り抜くべき存在だ! 貴様も同志ではないのか?」

「……そうだな、失言だ。忘れてくれ」


 その様子を少し離れた所から見ていた私は、彼女達の暖かい気持ちに胸が熱くなり、絶対に彼女達を否定しないと心に固く誓ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る