嘘も方便(法王の正逆位置兄弟)

「やぁ兄さんおはよう♪ 相変わらずだね♪」

「……」

「あ、そうそう聞いてよ! 今日僕が起きたらさ、目の前に揚羽蝶が居たんだよ! まぁ夢の話だけどね♪」

「……」

「あはは、兄さん今日はやけに機嫌が良いんだね♪︎ 目がキラキラしてるじゃないか♪」


 彼らのコミュニケーションは、彼らにしか分からない。一方的に弟と、その話を聞いているのかいないのか、終始無言の兄。一見交わって居ないようにも見える彼らだが、これでも兄弟なのである。


「大方主の事でも考えて居たのかな? そうそう主で思い出したんだけどさ~」

「……」

「……兄さん、主の事とかになると真剣に聞いてくれるよねー♪︎」

「……口が過ぎるようだな」

「あはは、兄さんと違って沈黙が苦手だからさ♪ 何か話をしていないと気が済まないんだよねー♪︎」

「……お前の話は全て虚無では無いか。何故虚無に拘る……?」

「あはは、兄さんその質問は愚問だよ。もう分かってるでしょう? 人は真実よりも虚無に惹かれる生き物だ。そしてその虚無により真実は濃厚なものになる……それを知った人の表情は何とも美しいと言われているからね……ま、僕は興味ないけどね♪︎」

「……」

「兄さん怖い顔してるねー……心配しなくても僕は主やその周りの人を傷付けたりするような虚無は言わないよ♪ 面白くないじゃないか♪」

「……面白味だけで動いているのではあるまい? お前なりに何かあっての行為だろう」


 兄である法王の正位置は、弟である逆位置の考えなどお見通しなのである。逆位置の話す虚無は、どれも害のないものであり、他者を傷付ける事は先ず無い。毎日のように聞いていると当然呆れてしまうが、そこは兄弟の腐れ縁と言うものだろう。そう割り切って考えることが出来るほど、意思疎通が出来た関係なのだろう。


「あはは、流石兄さんだ♪︎」

「……何年、共に過ごしていると思っている。手に取るように分からなければ、兄の威厳も無価値だ」

「相変わらず硬い頭だねー……付いていけないや♪ 別にさ、兄さんがどうであれ僕は僕であることには変わりはないんだから良いんだけどね~♪」

「……御前とは兄弟であり相対する存在だ。それ以上でも以下でもない」

「冷たいなぁ、ちょっと傷付いたんだけど? ……まぁ嘘だけどね♪」

「……」


 彼等の奇妙なコミュニケーションは、今日も続く。嘘ばかり話す弟と、終始無言の兄。そんな2人の様子を見るだけで安堵できるようになったのは、私も彼等の事を理解できるようになったという証なのかもしれない。

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