審議一点(審判の正位置)

『これより、判決を言い渡す。被告人は懲役15年、執行猶予2年とする』


 部屋に響き渡る、ドラマの裁判官役の人の声に、背が自然とピンと伸びた。何度も見ているが毎回慣れない、緊迫感あふれる言葉だ。


「主よ、貴殿は一体何を見ている……?」


 声を掛けられ振り返ると、こちらを怪訝そうに見つめる『審判』の正位置さんの姿があった。カード番号は20で、主な意味は『決断・審議を問う問題・正しい道を決める』など。彼自身正しさを常に追求しており、正直言ってかなりの堅物だ。

 ただ、彼のこの『正しさ』への追及心は異常なものがある。


「あ、審判さんこんにちは。何ってドラマだけど……?」

「ドラマだと……? これは審議する必要があるようだな……」

「え、どこが?」


 彼の中で疑問が生まれたとき、『審議』の時間が始まる。彼の中で自己解決するまで続くこの審議は、主である私の意見を丸無視で、突如行われる。


「主よ、貴殿は何故このドラマを見ようと思ったのかを述べよ。その発言を元に審議を遂行しよう」

「何故って言われても……ドラマが好きだからとしか」

「好きという感情一つにここまで揺り動かされるのか……このドラマは貴殿に何をもたらす? 何故このドラマでなくてはならぬのだ?」

「何って……人の深層心理を知れるというか。ドラマの中とはいえ、人が生きる人生には色んな意味があるじゃない? 同じ道は存在しないんだなっていうのを実感するっていうのかな。うまくは言えないけど、このドラマを通して人生の進み方の一部を学べるような気がするのよね」


 私が今回見ていたのは、所謂刑事ドラマで、犯人がどのような経緯で犯罪を犯したのかが鮮明に描かれている作品だ。

 今回の犯人は、愛する家族を守るために自らの人生の残りをかけて犯罪を犯した中年男性で、家族を守ることばかりに気を取られ、家族の思いと向き合えていなかった悲しい人であった。


「ふむ。このドラマは貴殿に良い影響を与えているようだな。それより審議の結果を言い渡す。主よ、貴殿の生活においてこのドラマは重要な鍵を持っていると判断した。よってこの先も見続け、見出すがよい」

「え……ありがとう……」


 審判さんの審議は、正直理解しがたいものが多い。だが、どことなく彼の審議の結果を聞くと今の自分の行いや言動が正しいものなのかどうかを明白にさせることができるような気がする。自身の行いや言動に自信がない時、彼の審議は非常に参考になる。


「ねぇ、審判さんも一緒に見ようよ!」

「何……? これは審議をする必要があるようだな。」


 嗚呼また始まった……そう思いながらも、私は彼の審議に耳を傾けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る