照らす対象(太陽の正位置)

 朝目覚めたとき……窓から射し込む暖かくて眩しい光を見ると、一日の始まりを改めて実感する。


「もう朝か、ふぁ……」

「あら、おはよう主。目覚めが宜しいことで何よりね」


 大きな欠伸をした私に、彼女は眩しく感じる笑顔を見せながら微笑んでくれた。


 彼女の名前は、『太陽』の正位置。カード番号は19で、主な意味は『ポジティブ・エネルギーに満ち溢れる・健康的な生活』など。太陽の名に相応しい輝かしい人物である。


「おはよう太陽さん、今日も無事に朝を迎えられたわね……良かった」

「そうね、主とこうして朝を迎えられた事、本当に嬉しく思うわ。昨日のあなたに感謝ね」


 彼女は何時も笑顔を絶やさず、私や周りの人への気遣いを怠らない。些細な事であっても気にかけてくれて、励ましてくれる。そんな彼女と一緒に過ごすと、自然と前向きに物事を考えられる気がする。


「ねぇ太陽さん、太陽さんの元気の秘訣ってある? 何時も太陽さんって元気で笑顔だから、何か秘訣とかあるのかなって思って……」


 思えば彼女が笑顔でなかった日など無い。普段は明るいが、雨の日になると途端に落ち込むスターちゃんとは違い、彼女は天候に関係無く常に笑顔だ。こんな事を疑うのも違和感があるが、何か秘訣というか、秘密があるのだろうかと考える。


「秘訣……? 主ったら、おかしな事聞くのね……ふふふ」

「え、そうかなぁ…? だってずっと笑顔って中々出来ることじゃないから。太陽さんは何時も笑顔でいるし、何か秘訣とかあったら教えて欲しいなって思ったの」


 その頃の私は、自分の心に何時も鍵をかけていて、作り笑顔でしか人と話していなかった。不思議なもので、作り笑顔をしている間は何の感情も湧かず、まるで単純作業であるかのように自然と出せる。それは一見楽ではあるが、やはり心の何処かにはもやもやしたものが疼いてしまう。

 対して彼女は常に本当の笑顔、本心で語りかけてくれる。どんな些細な事であっても、その笑顔と態度は一切変わらない。そこに尊敬もしているし、彼女の魅力だと思っているのだ。


「そうねぇ……私が心掛けている事は、『照らす対象を誰に当てるかをしっかり定めるように気を付けている』ってところかしら」

「照らす、対象……?」

「人と話をする時って当然だけど、自分と相手、二人の登場人物が欠かさず居る。勿論話をしている内に増えたりする事もあるけれど、基本的にはこの二人よね?

二人ともが主人公ってしてしまうと、互いが主張し合って進まないけど、視点を相手に合わせた上で進行すれば、自ずと相手の事を知ることが出来る。そうすると、自然と相手の考えに対する自分の思いを、一番に出すことが出来るの。何も知らない状態で話しても、ただ言いたい事だけを話して終わり。それだときちんとした思いは伝わらないわ。

でも、相手を照らす対象にした上で話せば自分の気持ちを少しずつ整理しながら、本音を話せるようになると思うの。本当に話したい事が相手にちゃんと伝われば、勘違いも少なくなるし本当の意味で向き合えるでしょう? それが、秘訣かしらね」


 太陽さんは、常に相手を敬う心を忘れない。カードの世界に年齢という概念は無いが、明らかに私の方がカード達を敬う立場であるにも関わらず、私を主として認め敬ってくれている。それは彼女の言葉を借りるなら、照らす対象を『私』にした上で話してくれているからなのだろう。


「誰だって真っ向から否定されると悲しくなるし、人によっては腹を立てたりするでしょう? なら、視点を相手に合わせた上で、相手の言うことを踏まえながら自分の意見を言えば、分かり合おうとする姿勢が垣間見えると思うの。主が私達の存在を受け入れた上で、胸の内を打ち明けてくれているのと同じ事よ」


 私達、本当に感謝しているんだから。そう言って彼女は、私に暖かい微笑みを向けてくれるのだった。

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