第53話
53 スレイヴマッチ開始
……ドゴォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーンッ!!
仕掛けられた爆弾が炸裂したように、俺の対面側にある客席の一部が突然吹っ飛んだ。
「キャアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーッ!?!?!?」
爆散する観客と瓦礫、渦巻く悲鳴……。
硝煙のような土煙の中から、姿を表したのは……。
『あっはぁーっとぉぉぉぉ!! ここで
まるで、山が歩いているかのようだった。
神木のような足を振り上げると、腰に巻かれた高波のようなデカさの化粧まわしが荒れ狂い、嵐のように土煙を舞い上げる。
……グオオッ!! ゴオオオッ!!
そして踏みしめるごとに、
……ドゴンッ!! バゴォンッ!!
と地響きがおこり、足元の瓦礫が粉々に砕かれ、戦車が通った後のように床が陥没した。
道すがらに、爆発を受けた
「ぎゃあっ!?」「ふぎゃああああ!?」「うぎゃぁぁぁっ!?」「ゲコォォォォォォーーーーーーーーッ!?!?」
ゴキッ! グシャッ! ベシャアッ!! ゲコシャアッ!!
まるでアスファルトのアリのように、あぜ道のカエルのように、容赦無く踏み砕いて進む……!
水風船のように潰し、真っ赤な足跡を残していくドルスコイ。
そのあまりの凄惨たる光景に、観客たちは泣き叫んでいた。
「ひ、ひどい……!」「な、なんてことを……!?」「や、やめて、やめてください! ドルスコイ様っ!」
しかし
「いいぞーっ! ドルスコーイ!!」「ぎゃはは! クズどもがノシイカみたいになってやがる!!」「セージも同じように、ぺちゃんこにしてやれーっ!!」
『たくさんの声援と悲鳴を受けながら、
うーん、実況の言うとおり、たしかにデカイ。
俺の顔が、ヤツの膝上くらいの高さにあるから、本当に赤ちゃんになったような気分だ。
しかもヤツにとっては赤ちゃんどころかアリンコにでも見えているのか、まったくこっちを向こうとしない。
ひたすら生徒会長の座っている玉座を見上げながら、闘技場の中央まで進んだ。
『あはーっとぉ!? ここでドルスコイ君、ショウ様への忠誠の証を……ショウ様がおられる天上席へと掲げましたぁーーーーーーっ!!』
アゴをそらし、腕をめくりあげるドルスコイ。
首と腕にはタトゥーが入っている。
どちらも白い色で、首には首輪のようなデザインのタトゥー。
そして腕には、縦書きで……。
シ
ョ
ウ
様
命
という、バカップルが入れそうな文字が彫り込まれていた。
『このショウ様への忠誠の証は、ミルキーウェイ様以外の生徒会役員は、全員しています! 普通、
……ふーん、そういうことなのか。
『そしてそのタトゥーに誓いを立てたということは、ドルスコイ君はこの「スレイヴマッチ」を、ショウ様に捧げるという意味でもあります!! となれば……ドルスコイ君は死んでも負けられません!! もし負けたら生徒会どころか……ショウ様のお顔にも泥を塗ることになってしまいます!!』
ここでようやくドルスコイは、俺たちのほうを向く。
トーテムポールみたいな厳つい顔に、歌舞伎役者みたいな隈取りをしていた。
俺の前にはチャン兄妹がいるのだが、視線は明らかに俺だけを射抜いている。
「セージ……! よく逃げ出さずに来たでグォワスなぁ……!! それだけは、褒めてやるでグォワス……!!」
やけに重苦しく、やけにいがらっぽい声だった。
そして……ほんのり臭かった。
「お前……デブり過ぎて、内臓やられてるのか? 最初見た時に、山が歩いてるみたいだと思ったが取り消しだ。ドブが歩いてるみたいな臭いがするぞ?」
俺の突っ込みに、『あっはっはっはっはっ!!』と実況が爆笑し、そのあとに観客がどっと沸く。
豪雷のような青筋が、ドルスコイの顔全面にビキビキィ!! と走った。
血相を変えて振り向いたチャン姉妹が止めようとしてきたが、俺の口撃はこんなもんじゃすまない。
「あと、知ってるかもしれないが、デブって一番最初のやられ役なんだぞ? しかもデカければデカいほど、そのかませ度は上がる……。お前にはその資格が、じゅうぶん過ぎるくらいあるな。いやむしろ、お前はかませ界のIT革命レベルだ」
会場はさらなる爆笑の渦に包まれ、カアッとドルスコイの顔が赤熱した。
噴火寸前の火山のように、頭から白煙を立ち上らせている。
なにか言い返そうとしていたようだが、
『あっはっはっはっはっ!! あーっはっはっはっはっ!! さあっ、場も暖まってまいりましたので、さっそく「スレイヴマッチ」のほうに参りましょう!! それでは、両者みあってぇぇ~!! はっけよい、のこったぁぁぁぁぁぁ~っ!!!!』
……ゴォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ!!
実況のふざけた合図のあと、ゴングを100倍派手にしたような鐘の音が、場内を揺らした。
俺としてはもうちょっと、ヤツを挑発したかったんだが……。
でも、まーいっか。
気付くと、いつの間にかチャン兄妹は俺の後ろにいて、
正面には、あと少しで爆発寸前だったドルスコイが。
すでにいつもの自分を取り戻たのか、不敵にニヤリと笑っていた。
位置関係的に、なんか変な感じだな……。
俺とドルスコイが正対するのはともかく、敵味方に囲まれる形になるなんて……。
なんてことをボンヤリと、考えていたら……。
「「どぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーすこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーいっ!!」」
ステレオの蛮声と、サンドイッチにする勢いで、
その狭間で、俺はたしかに聞いていたんだ。
「セージちゃん、よけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!!!!」
降り注ぐ、絹を裂くような、天使の叫びを……!
「セージ……! 悪く思うな……!」
「ごめんっ、セージっ……!」
そして背後から突き刺さる、慣れ親しんだ兄妹の、悲痛なるささやきを……!!
まさかっ、コイツら……!?
と気付いた時には、もう遅かった。
それは完全なる連携プレーだったんだ。
まずは両側から
チャン兄妹が、背後から蹴りかかる……!
それらが一度に来る攻撃であったならば、俺は反応できていたであろう。
しかし時間差攻撃で、しかも背後から……。
そして風の精霊の力で、数倍の鋭さを持った跳び蹴りともなれば、よけられないっ……!
振り向いた時には、すでにふたつの跳び蹴りは、俺の身体にインパクト寸前。
彼らの胸で堂々と揺れる、光り輝くバッヂ……。
しかしその誇らしげなデザインと反比例するかのように、ふたりの表情は苦悶に歪んでいた。
あばれるちゃんは、泣いていた……。
クリスチャンも、泣いていた……。
ゆっくりと過ぎていく、世界の中……。
ふたつのカンフーシューズが、俺の身体をマトモに捉え……。
「どぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーすこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーいっ!!」
駅のホームのギリギリを歩いているときに、ノンストップの暴走列車が突っ込んできたような……。
そんな暴声と暴圧が、俺の目の前をかすめていった。
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