第52話
52 力の塔へ
俺はドルスコイとの『スレイヴマッチ』の日まで、学園から行方をくらますことにした。
なにやら陰謀めいたものを感じたからだ。
事の流れからいえば、放火はドルスコイの差し金と考えるのが普通だが……。
いずれにせよ、真相究明に動くには時間が足りない。
それに火事があった直後の俺は、何よりもシトロンベルの安全確保を優先した。
逃げた放火魔は追わずに、真っ先にミルキーウェイの部屋を尋ねたんだ。
シトロンベルをこのまま
でも女神サマの元なら、この世界のどこよりも安全だろう。
ミルキーウェイは、なんとかして俺も自室に引っ張り込もうとしていたが、それは断った。
学園トップの美少女、それがふたりもいる部屋に泊まったなんて知れたら、面倒が増えるだけだからな。
そのあと俺は学園を出て、のらねこ団のアジトに厄介になった。
ヒナゲシたちに建ててもらった家が燃やされたと知るや、メンバーは怒り狂って学園に殴り込みをかけそうになっていたが、それは押しとどめた。
それからドルスコイとの勝負までの数日は、ノンビリするつもりだったがあっという間だった。
学園の状況を知るため、毎日学園にのらねこ団を偵察に向かわせる。
そこでシトロンベルの安否、チャン兄妹の安否、学園新聞の内容を報告してもらった。
シトロンベルのほうは、ミルキーウェイがちゃんと面倒を見てくれているようだ。
それどころかべったりで、ミルキーウェイの鶴の一声で、シトロンベルは賢者待遇を受けているらしい。
「シトロンベルさん、女神様みたいな
これは、偵察にあたった者のコメントである。
チャン兄妹は、なにやら立派なバッヂを付けているらしく、風紀委員としてさらに幅を利かせているそうだ。
ともあれ、無事ならそれでいい。
学園新聞については……。
ログハウスの放火については、当然のように報じられていた。
そして、その次の日の新聞には……。
お互い親友同士で、部活は同じ
さらに、そいつらはまぎれもなく……。
俺があの日の夜に見た、ふたり組だった……!
たしか、あの夜……ログハウスの前で腰を抜かしていた、彼らのひとりが言っていた。
「よ、良かった……! シトロンベルさんになにかあったら、あの御方がお怒りに……!」
あの御方ってのは、
それがドルスコイなのかどうかは……まだわからない。
だが俺の中でくすぶりかけていた、あの日の夜の感情が……。
間違いなく、再び焚きつけられた……!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『あっはっはっはっはっ! さあっ! いよいよやってまいりました、
俺たちは闘技場へと続く薄暗い通路を歩きながら、やたらと黄色い声の実況を聞いていた。
『しかも今回は生徒会役員である、”爆襲龍”ドルスコイ君が出場するとあって、他の生徒会役員も勢揃い! しかも生徒会長のショウ様もお越しになられております!』
わんわんと反響し、鳴り渡る声。
この世界には、マイクとかスピーカーみたいなものもあるんだな。
おそらくアレも、魔法の力なんだろう。
なんてことを考えながら広い場所に出ると、まばゆいスポットライトと刺々しいブーイングが、俺たちを包んだ。
『あはぁーーーっとぉ!? いま、風神流武闘術同好会のメンバーが、姿を現しましたっ! 先頭にいるのは、風神流武闘術同好会のキャプテンと副キャプテンでありますチャン兄妹! そしてその後ろにいるチビっ子が……あっはっはっはっはっ!! 噂の
降り注ぐ円形の光は、なぜか俺にばかりつきまとってくるので、まぶしくてしょうがない。
こうしてると何だか、刑務所を脱走しようとして見つかった囚人の気分だな。
『セージ君は
実況の言うとおり、いま俺がいるのは、この学園の施設のひとつである『力の塔』。
ここは体育館や武道場になっていて、地下1階と地上0階、そして屋上は闘技場になっているらしい。
そして俺が立っているのは、地上0階の闘技場。
その見目はまさに、古代ローマのコロシアムであった。
円形のフィールドを囲む観客席には、ギッシリと生徒たちが詰まっている。
満員御礼の球場のような規模で、俺はその数に驚かされた。
おそらく全校生徒が集まっているんだろうが、この学園って、こんなに生徒がいたのか……。
ちなみに階級によって座席は分けられている。
生徒会役員は一番上のVIP席。
見てみると、シトロンベルとミルキーウェイの姿もあった。
ふたりして純白のウエディングドレスに身を包み、囚われの花嫁のように不安そうに俺を見下ろしている。
目が合うと、ふたりして身を乗り出してなにか叫んでいたが、ブーイングにかき消されて聞えなかった。
そして、VIP席のさらに上……。
この闘技場において、いちばんの高み……。
空中庭園のような豪華に飾られた玉座から、見下ろしていたのは……。
生徒会長である、ショウ・シンラバン……!
周囲に多くの女どもをはべらせ、高みの見物。
古代中国の支配者が被る
そこから少し視線を落とすと、小さなステージがあった。
ぶわっと広がったレモンイエローの髪を、ざっくりと結った女生徒が走り回っている。
どうやらアイツが、さっきから喚いていた実況者のようだな。
『そして今回、このビッグ・イベントを皆様にお伝えしますは、ある時は「イエローペーパー学園新聞部」部長! そしてまたある時は、笑顔で真実を串刺しにする、
二つ名の通り、太陽を浴びた褐色の肌にさんさんとした笑顔。
むしろ自身が太陽であるかのように、光の筋のような髪の毛を振りまくゴーシップ。
元気いっぱいに、バッ! と俺の背後にある空中を指さしていた。
振り返ってみると、そこにはスコアボードのようなものがあって、
『1千万ポイント山分け! 勝敗予想クイズ!』
風神流武闘術同好会の勝利 … 3票
セージの逃走 … 約5000票
セージの死亡 … 約10000票
なにやら嫌な感じの投票結果が、デカデカと貼り出されていた。
『さて、勝敗予想クイズのほうは、セージ君がやって来たので、「セージの逃走」はこれでハズレとなりました! 投票した人、ざんねぇ~んっ! あっはっはっはっはっ!!』
俺らが勝つと思っている生徒は、たった3人しかいないのか……。
他は票数が多すぎるのか、だいたいの集計なのに……俺らの票は少なすぎて、ハッキリ出ちゃってるじゃないか……。
まあ、別にいいけど……。
でも何だよ、『セージの死亡』って……しかもそれが最多得票って……。
しかし、俺が感じていた不満は……。
この直後に現れたドルスコイの姿を見て……。
俺の考えは、「なるほど、確かにそうかも……」に変わってしまった。
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