第6話
06 入学式
俺が海沿いの道をぐるりと回って、賢者学園の入り口に着く頃には……。
99枚もあった紹介状は、すべてなくなっていた。
なにせ行く先々で、今にも死にそうなヤツらに出くわしてしまったんだ。
まさかあの道が、紹介状を無くしてしまった者たちが向かう、
自分の食べる分までくれてやるなんて、まさか俺がこんなお人好しだったとはな。
1周目の人生だったら考えられないことだ。
でも、まーいっか。
俺は
適当に食う寝るところに住むところがあれば、それでいいんだ。
仙人のような気持ちで、賢者学園の入り口に立つ俺。
『オリエンス賢者学園』という柱の立つ校門は、左右のふたつに分けられていて、かなり幅広い。
理由はすぐにわかった。
出入りする馬車がぶつからないように、道幅が広めに取られているためだ。
しかし馬車が出入りしているのは右側の入り口だけで、もうひとつの左側の入り口は徒歩の生徒ばかりであった。
門の境目に立って、係員らしき小男が叫んでいる。
「『オリエンス賢者学園』の入学式へようこそ! あっ、どうぞどうぞ! 紹介状のある方は右の門からお進みください! ……紹介状がない? ゴミは左だよ! 忙しいんだから邪魔すんじゃないよ!」
紹介状のありなしで、あからさまに応対が違う。
まあこの世界で紹介状を手に入れられるのは、賢者にツテのある貴族か、盗んだ招待状を買える大金持ちくらいだからな。
紹介状がないのは、庶民以下といっていいだろう。
それに紹介状がなければ『
ちなみに賢者学園に入る方法もけっこういい加減で、入学式の当日に学園に行くだけでいい。
試験などは一切なく、事前の申し込みすらも不要。
でもそれなら入学者が殺到するのではと思うだろうが、学費が高いんだ。
そして学費が払えなくなった時点で、容赦なく追い出される。
そんな苦労までして入学しても、招待状がなければせいぜい『
といっても
だから……庶民はいくら虐げられようとも、この賢者学園に憧れ、せっせとお金を貯めて入学したがるんだ。
俺はガラになく苦いものを感じながら、左側の校門をくぐる。
ソテツみたいな木が並んだキャンパスを歩きつつ、空を見上げると、飛行船場からも確認できた白い巨塔がさらに荘厳なる威圧感を持ってそびえていた。
先端のほうが十字の形になっているアレは『天地の塔』といって、この学園の中心的建物である。
あの塔を中心として、まわりを石柱のような小塔がぐるりと囲んでいる。
道すがらに、ちょうどいい案内板があった。
真ん中の『天地の塔』のまわりにある空間が校庭で、時計の文字盤みたいに並んでいるのが校舎だ。
ちなみに校舎どうしは、輪のような渡り廊下で繋がっている。
しばらく進んで行くと校舎の敷地内に入り、『招待状のない
花壇の小径をぬって進んで行くと、小塔を抜け、天地の塔の東側に出た。
上の見取り図でいうなら、天地の塔と、下僕の塔の間の場所。
そこには今日この学園に入学するであろう、
「おら、ちゃんと並べ! いい
おそらく上級生らしいヤツらがその場を仕切っていて、新入りたちをどやしつけている。
「おい、そこの! なにをチンタラ歩いているんだ! 駆け足! いい
俺も怒鳴られながら、やれやれと列に加わった。
しばらくして、入学式が執り行われる。
どうやらそれぞれの階級に応じて、集まる場所が違うらしい。
そして
「全員、天地の塔に注目せよ!」
体育会系の号令にあわせて、ビシッ! と向き直る。
天地の塔は遠目では純白の建物だったが、近くで見ると水晶のような透明感があり、鏡のように周囲の風景を映し出していた。
そこに投影されるかのように、玉座に座る人物が浮かび上がってきた。
しかしヴェールのようなカーテンがあって、顔や服装はわからない。わかるのはシルエットだけ。
平安時代の偉い人かよ……。
と思っているとカメラが引いて、その手前で横一列に整列している、立派なローブ姿の男女たちが映し出される。
まるで悪の幹部が勢揃いしているみたいだな、と思っていたら、王様の両隣にいた金将銀将みたいな男たちが一歩前にでた。
『『「オリエンス賢者学園」の生徒会長、“全能の”ショウ・シンラバン様に投地せよ!』』
ふたりのピッタリと揃ったかけ声が、拡声器を通しているかのように周囲の塔から響き、学園じゅうにわんわんと鳴り渡る。
ザザッ! と一斉に膝を折る生徒たち。
俺だけボーッと突っ立っていたら、血相を変えた上級生たちが飛んできて、無理やり這いつくばらされてしまった。
正直シャクだったが、力で来られてはどうしようもない。
歯噛みをしながら睨みつけるばかり。
王様の右側に立っていた、金髪のオールバックに褐色の肌の大男が叫んだ。
『ドンは、生徒会役員代表、“黄金の暁”ゴールデンドーン・ドーンドーンどーん!』
……なんだ?
いま『ドーン』って単語を、5回くらい繰り返したような……。
しかし何事もなかったかのように、王様の左側に立っていた、銀髪のミディアムヘアーにスクエアな眼鏡をかけた優男が続ける。
『自己紹介ッ!
『
それを堂々と口にするとは……。
ゴールデンドーンとシルバーサンセットと名乗った男たちは、交互に繰り返す。
『貴様らのようなひよっ子どもに、未来の
なんだ、金髪男のほうの『どーん』ってのは語尾でもあるのか。
太○の達人みたいだな。
『したがって、
こっちの銀髪男のほうは、四字熟語を挟まないと気が済まないらしい。
『
まぁいずれにせよ、いちばん気に入らないのは……。
顔も出さないアイツ……ショウ・シンラバンだな。
俺は入学式のあいだずっと取り押さえられていて、ずっとムカムカしていた。
そのおかげで、祝辞なんてこれっぽっちも頭の中に入ってこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます