第17話 果たせなかった思い

「わっ」


 驚いて飛びのいた真琴だったが、その背中を北星が支えた。


「大丈夫。別に怖いことをしてくるわけじゃない。この分霊は……きっと、自分を祀ってくれた人たちを守れなかったと思い込んで、謝っているんだ」

「守れなかった……ですか?」


「ああ。新政府が来て、ここに住んでいた人たちは家を離れ、空き家になってしまった。だから、守れなかったと思ったのだろう。それでも、いつか戻ってくるかもしれないと思って土地を守っていたが、そこに新しい家を建てるからと、土木会社がやってきて……」


「あっ! それじゃ、さっきの異形の妖は……」

「この社の分霊の一部が、土地を守ろうと異形化したものだろう。この家に戻って来るであろう一族の住処を守るために、きっと戦っていたんだ」


 北星はそっと社を撫でた。


「大変だったね。大丈夫、東京を離れた大名も、地元で暮らしていたり、何らかの形で生活していたりするから。この屋敷に住んでいた人たちを探して、社を移してもらおう」


 優しい言葉をかける北星に、真琴も柔らかな気持ちになったが、不意に先程の北星の姿が頭に浮かんだ。


「先生、お優しいなぁと思ったのですが、さっきは容赦なく攻撃をしていませんでしたか?」

「……」

「“うちの弟子に汚い手で触ろうとした罰だ”とか言って、追撃もしていた気が……」

「当たり前だ。うちの弟子に汚い手で触るなど師匠として許せるものか」

 

 言語化するのが嫌だったのか、北星はどこか不満そうな顔をした。

 しかし、聞いた真琴の方はくすぐったくも、うれしかった。


「ありがとうございます」

「別に感謝されることじゃない。 おまえの父にも頼まれているしな」

 

 父と聞き、真琴は懐かしくなった。


「そういえば父はどうして先生の弟子になったのですか?」

「まぁ、その話はおいおい。それより、あの土木会社の男たちに話をつけにいこうか」

 

 はぐらかされた気がしたものの、確かに土木会社の二人に話をつけないといけないので、真琴は北星と共に男たちのいる方に戻った。


 男たちは腰を抜かしていた方がやっと回復したのか、よろよろと立ち上がっていた。


「お二人とも」


 北星の声に男たちはビクッとして振り返る。

 

「ここの土地に新しい建物を作るに際して、土地の調査や地鎮祭などもろくにせずに、建てようとしましたね」

「それは……」

「だって、もう今さらそんなもの、なぁ……」


 北星は軽く眉を上げた。


「……そのような迷信や旧習はもうこの時代には必要ない、ですか」

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