第14話 黒い影の足音

 男が指さした先から、クシャ、クシャッと草を踏む足音がする。

 真琴が後ずさろうとすると、持っていた風呂敷が手から滑り落ち、中から破魔弓が出てきた。


「あっ……!」


 慌てて拾い上げ、真琴は北星の言葉を思い出す。 


(その矢も今は逃げる隙を作るのに使うくらいが精一杯……って先生が言ってた。それなら、逆にこれを使えば逃げる隙が作れるかもしれない……)


 真琴はぐっと弓を構えた。


「た、倒せるのか」

「わかりません。でも、逃げる隙は作れると思います。ですから、どうか僕が矢を撃ったらすぐ、逃げてください」


 この土壇場でいきなり矢が作れるのか、真琴は不安だったが、その気持ちを頭を振ってかき消した。


(大丈夫……、きっと矢は出来る! 人を、守るために!)


 真琴がギュッと力と思いを込めて、弦を引いた。


「出来た……!」


 矢が、北星とやった時よりも大きな矢が出来たのである。

 しかし、それに呼応するように、ぐいんと黒い影が近づいてきた。


「……ひゅう……う……うぁう……」


 ゆらゆらしていただけの何かが、足音を持ち、黒い影という形になって現れたのだ。

 しかも、その黒さは禍々しい黒さだった。


「えっ……」

 

 弦を引いた状態で真琴がその黒い影を見つめる。

 黒い影は真琴たちに向けて、口らしきものをバカッと開いた。


「その力……その力あああああ!」


 今度ははっきりとした声が、真琴にも男たちにも聞こえた。


「うわあああ!」

「僕が矢を放ったら、逃げてください!」


 男の悲鳴で逆に冷静になった真琴が、男たちを叱咤する。


「行きますよ!」


 のんびりしている余裕はないので、真琴はすぐに矢を放った。


「キゲギャアアアアア!」


 真琴の光の矢はまっすぐ黒い影に向かい、闇を貫くように刺さった。


 悲鳴とも鳴き声ともいえるような、この世のものとは思えない声で霊がのたうち回る。


「今のうちに!」


 真琴が震える男たちを励まして、走り出そうとした時、空から雷が鳴った。

 ピカッと光った稲光が、黒い影を照らし、その異形に真琴の足が震えた。


「何……あれ!」


 一瞬見えた異形は、先日、北星が祓っていた小鬼とは全く違った。

  

「き、君、手を貸してくれ。こいつが走れない!」


 男の一人が腰が抜けてしまい、助けを求められる。

 真琴は手を貸そうとしたが、小さな真琴では力が足りない。


「もう一度、矢を撃ちます。その内に……!」


 男たちが逃げる隙を作ろうと、真琴が破魔弓を構える。

 ところが、矢が浮かんでこない。


(集中力が……)

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