第13話 ゆらゆら

「今の東京も貧民、最貧民がいるけど、あの頃はもっとひどかったからな。支援の手もなかったし。君はいい生活してる子みたいだから、そんな人たちのことは見ることないか」


 あきらめに似た笑いを浮かべる男たちに、真琴の胸がチクっと痛んだ。

 それをどう言葉で表せばいいか、真琴が悩んでいると、草生した奥から何かが聞こえてきた。


「……ひゅぅ……ひゅう……」


 声のような音のようなものが風に乗って、真琴の耳に届く。


「どうした?」

「今、声が……」

「声?」


 真琴の言葉に半信半疑で男たちが耳をそばだてる。

 

「……ひゅぅ……ひゅう……」


 今度は聞こえたらしく、男たちは耳に添えた手をおろして震え出した。


「これが……」

「嘘だろ……、大工たちの妄言じゃなかったのか?」


 霊が出るという話をそれまであまり信じていなかったのか、男たちの顔から余裕の色が消えた。


「お、おい、君。何か姿とか見えないのか?」

「姿ですか?」

「君だってあの師匠の弟子なら、幽霊を見るくらいできるだろう?」


 早口で男がせっつく。


 真琴は困惑しながら、じっと目を凝らした。


 草が背の高さを越えるほど生えた場所に、何かがゆらゆらしている。


「何かいます。ゆらゆらと、意志を持って動いているような……」

「ひええええ!」


 ゆらゆらした物体よりも、男の一人の叫び声のほうに、真琴はビクッとした。


「お、大きな声を出さないでください。驚いたじゃないですか」

「そ、そんなことより早く退治してくれ」

「でも、よくは見えないですし……」

「よく見えるようになる前に倒してくれよ!」


 どうやら男の一人は怖がりらしい。

 真琴をせっつく声が上ずっている。


「今まで、先生以外の人にも除霊を頼んだのですよね? その時はこういうことはなかったのですか?」

「なかった! 何もいないという奴もいたし、自信満々に私の力で霊を消滅させたから大丈夫なんて言うのもいたが、次の日になったらまた問題が起きたこともあったし……」


 男が早口で説明をしている間に、風が冷たくなってきた。

 

「な、なんだ……」

「まだ、昼過ぎだぞ。なんでこんな暗く……!」


 夕暮れ時には、まだ時間のある時間だったはずなのに、空に雲が厚く垂れこめ、辺りが暗くなった。

 風もまるで真冬のような冷たさで真琴の頬を撫でた。


「おい、何か来るぞ!」

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