第12話 困っている人のために
困ってる小さい子がいる、近所の人も困っていると聞き、真琴は気持ちを奮い立たせた。
「わかりました! 見るだけでよろしければ……」
その返答に男たちの顔色が明るくなった。
「ありがとう! それではすぐに行こう」
「あ、ほんの少しだけ待ってください」
真琴は鍵を開けて家の中に入り、学校の荷物を置いて、代わりに破魔弓を取り出して風呂敷に包んだ。
「よし、これを持って行けば……!」
部屋を出ようとする真琴の耳にチャリンと大きな音が聞こえた。
音のほうに目を向けると、適当に出して置いた学校の荷物からお守りの束が落ちてきた。
「あっ……」
それは真琴の父が真琴に遺したものだった。
一瞬、荷物になるかなと躊躇しかけた真琴だったが、お守りの束が持って行くようにと訴えているような気がして、真琴は風呂敷の中に押し込めた。
「お待たせしました」
真琴が家を出ると、男たちが煙草を吸いながら待っていた。
「よし、行こう」
男たちは人力車を拾い、真琴もそれに乗せて、工事現場に向かった。
「うわぁ……」
工事現場に降りた真琴の口からそんな声が漏れた。
「ひどいだろう。草ぼうぼうだよ」
「なんでこんなことに……」
古い大名屋敷は草むしているだけでなく、あちこちが壊れていた。
「こんなに壊れてしまうんですね……」
「いやぁ、これは壊れたんじゃなくて、壊されたんだろう」
「……壊されたんですか?」
「わかるだろう、それは」
男は勢いよく言いかけて、途中で止まって、頭をかいた。
「君くらいの年の子は知らないか」
「?」
「新政府の人間たちが東京に入って来るのに追われるように、慌てて出て行ったところもあるからね。君の先生にも話したが、この大名屋敷はそういう家だ。そして、そんな家に金目のものがあるんじゃないかと盗みに入る奴らもいたのさ」
「金目のものがないとわかった後に、怒って壊したやつもいるだろうな」
男たちの説明に、真琴の表情が曇る。
「……ひどい話ですね」
「いやぁ、そうでもないさ」
意外にも男たちは真琴の意見に首を振った。
「盗みに入る奴も生活に困っていたんだよ。御一新で暮らしが立ち行かなくなってね」
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