第9話 北星の結論

「そうらしいんですよ。ごめんなんて言うくらいなら、工事の邪魔をしないで欲しいんですけどね」


 鼻で笑う男を見て、北星は心を決めた。


「お話はわかりました」


「しかし、そういう依頼は私は遠慮します」


 北星の拒絶が意外だったのか、二人の男は目を丸くした。


「いやいや、除霊料金は弾みますよ」

「先生にはちょちょっと霊を祓っていただければいいので」

「ちょちょっと祓えるくらいなら、私以外の方に頼まれればよろしいでしょう。当方ではお引き受けしかねますので、お引き取り下さい」


 冷然と拒否する北星に、男たちは戸惑い、ためらいを残したまま、桜春堂治療院を去っていった。


「……良かったのですか?」


 茶器を片付けながら、真琴が北星の様子をうかがう。


「いいんだ。私は困っている患者さんのために格安で除霊するのは構わないが、気に入らない人間を助けてやるほどにはお人好しでもない。放っておこう」

「でも、彼らの言っていた工事現場に現れる霊というのは放っておいて大丈夫なのでしょうか? ごめんねって言っていたのが、気にかかります……」


 真琴の問いに北星は微笑みを浮かべた。


「おまえは優しい子だね。話に出た霊は、その場所に関わらなければ何もしないみたいだから大丈夫だろう」


 そう見立てたからこそ、北星は断った部分もあった。

 ただ、と北星は話を続ける。


「他に累が及ぶなら、依頼がなくても行くつもりだ。だが、さしあたって、あの男たちの金儲けに付き合うくらいなら、おまえの霊力の訓練でもしてやるのに時間を割いた方がいい」

「そんなこと言って……先生、なかなか教えてくれないじゃないですか」


 真琴が小さな唇を尖らす。


「三年前に父が亡くなって先生の元に来た時から、先生は“おまえに必要なのは霊力の訓練ではなく、学校の勉強だ”って、ほとんど霊力の使い方なんて教えてくれなかったじゃないですか」

「そうか。おまえがうちで暮らすようになって三年も経ったかねぇ」


 北星はそうすっとぼけたが、真琴の視線に動かされたのか小さくうなずいた。


「今日はお客様が来るまでの間、少し見てあげよう」

「本当ですか!?」


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