第8話 男たちの依頼
「ああ、そちらのお客さんですか。どうぞこちらへ。真琴、お茶を入れてきてくれるかい」
「はい」
真琴は急いで台所に行き、北星は背広の男たちを客間へと案内した。
「それでどのようなお話なのでしょうか」
「あの、除霊を依頼すれば祓っていただけるんですよね?」
「それはご依頼の内容にもよります」
言質を取ろうとする男を北星はじっと見据えた。
「先にお聞かせいただきたいのですが、あなたがたはどのような方々なのでしょうか」
「我々は山川土木会社の社員です。実は実業家の方が新しい邸宅を建てられるということで、古い大名屋敷を壊すことにしたのですが、その中でおかしな事態が多発しまして……」
背の高いほうの社員が言い淀むと、そこで真琴がお茶を出した。
ちょうどいいところで来たとばかりに、土木会社の社員二人はお茶を飲む。
北星はその様子を見つめながら口を開いた。
「おかしな事態というのは、どんな事態ですか?」
「お願いしていた大工の棟梁が急に具合が悪くなったり、現場に入った人間がおかしな声が聞こえるとか言い出したり……、そんなことが重なって全然、工事が進まなくて困っているのです」
「実業家の方からは、山川土木会社を信じて任せたのにと不満が出ていて……なんとか早く工事を進めたいのですが」
男たちの表情からは焦りの色が見えた。
しかし、それとは逆に北星はゆっくりと詳細を尋ねる。
「新しい建物を作るに際して、元の屋敷の人にはお会いになりましたか」
「いいえ。その大名屋敷自体、御一新のごたごたの後、主たちが逃げ出すようにいなくなったという話でして……」
説明をする男の話に被せるように、隣の男が話し始めた。
「まぁ、時代の変化についていけなくて落ちぶれてるんでしょう。あの屋敷もいろんな人の手に渡って渡って、それで実業家の方に買い取られたようですし」
“時代の変化についていけなかった”というところで、男は嘲るように笑った。
一瞬、北星は微かに眉を動かしたが、何かを口にはせず、話を進めた。
「現場に入った人が聞いたおかしな声というのはどんな声だったのでしょうか? 何か言葉としてわかるようなものはありましたか?」
「どんな声……んんー、聞いたという人間はみんな怖がって要領を得ないのですが、男か女か子供かわからぬ声で、ごめんね、ごめんねと言っていたという作業員もいましたね」
「ごめんね……?」
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