第7話 普段と違うお客さん

 お茶を淹れながら北星が弟子の言葉を待つ。


「……先生はあんなに力があるのに、除霊だって堂々と、桜春堂治療院の看板に掲げないのがもったいないなと思いまして……」

「ああ、それで辰吉さんに施術したときから、様子がおかしかったのか」


 北星は真琴の表情の変化に気づきつつ、言うのを待って、あえてつっこまなかったらしい。


「ま、いいじゃないか。仰々しく除霊しますなんて掲げるより、お客様の体も楽になる、霊も祓えると一石二鳥なんだし」

「でも、除霊でしたらもっと高額なお金が取れますのに……」

「いいんだよ。そこそこ稼いで、そこそこの暮らしをする。人間、ほどほどが一番なんだ。さ、そんなことより、お茶、熱いから気をつけなさい」


 茶を渡してやり、自分も一口飲んで、北星は空になった皿を見た。


「パンもいいが、お茶を飲むと、おいなりさんが食べたくなるな。酢飯に胡麻だけが入ったものもいいし、椎茸などの具が入ったものもいい」

「椎茸が入っているおいなりんさんなんてあるんですか?」

「ああ。胡桃を入れたり、蕎麦を入れたりするところもある。各地、違うおいなりさんがあるから、旅行の時に食べて回ると楽しいぞ。今度、また、おまえが学校が休みの時に旅に行こう」


 旅好きの北星は春ならここがいいんじゃないかといったことを嬉しそうに話した。


 昼食を終えると、午後には普段は見かけない雰囲気のお客さんがやってきた。


「洋装の、背広姿の男性たちがうちにやって来るなんて、珍しいですね。何用ですか?」


 さりげなく真琴を後ろに隠しながら、北星が尋ねる。

 しかし、その人物たちは別口の“客”であった。


「すみません、こちらの先生が除霊をしてくださるとお聞きして……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る