第4話 憑き物と北星
北星は片手でキュッと小鬼を掴み、ポイっと空中に放り投げて、その放り投げた小鬼の前ですっと線を引くように指を動かした。
小鬼が線に沿って半分に切れ、シュワっと消える。
ただ、指を動かすだけで何のまじないも唱えず、北星は小鬼を祓っていった。
その間にも休まず、空いてるほうの手で、辰吉の肩を揉み続ける。
「ああ、いいねぇ、先生。先生は細い指をしてるが、力がある。肩が軽くなっていくよ」
「それは良かったです。背中の方もやっていきますね」
北星が辰吉の背中のほうに手を置くと、辰吉についた憑き物たちがぶわっと膨れ上がった。
禍々しい空気が一気に部屋の中に漂う。
小鬼では
憑き物の黒さも忌まわしい粘度もグッと上がっている。
(先生っ……!)
真琴が声を出しかけると、北星が自分の唇の前に人差し指を立てた。
しーっと、静かにという指示だと気づき、真琴はギリギリで自分の声を抑える。
もし、真琴が騒いだら辰吉が何が起きたのだと驚くことだろう。
その意図に気づき、真琴は黙って、北星の施術の様子を見守った。
憑き物たちはぐるっと黒い影となって、北星を囲むように広がった。
北星はその広がった憑き物を……素手で掴んだ。
「!?」
真琴は憑き物がハッキリとは見えないが、憑き物が狼狽しているのがわかる。
北星は自分を襲おうとしてきた憑き物を、右手でギュッと掴んだのだ。
「どうだい、先生」
何も知らない辰吉が寝転がったまま尋ねる。
「ええ。背中のあたりがとても凝っているので、ほぐしていきますね」
「ありがとよ。でも、そんな撫でるくらいで大丈夫なのかい?」
背中を手で撫でられるのを感じながら、辰吉が不思議そうな顔をする。
「強く押したりすると痛くなってしまうので、これくらいがいいのですよ」
説明しながら、北星が掴んだ憑き物をぐいぐいと辰吉の背中から剥がそうと引っ張っていく。
憑き物は抵抗しようとするが、北星はギュッと掴んだ場所を強く握りしめ、そこから逆侵食するように憑き物と辰吉の接着部まで手を進めていった。
「痛かったらおっしゃってくださいね」
柔らかな声でそう伝え、北星は憑き物の根本らしき部分を掴んだ。
左手は細く長い指が優しく背中を撫でているのに、右手は
(先生って意外と力技……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます