第6話 ウィル②

 死ぬのって嫌だな。痛いし怖いし。それと死に慣れるのが恐ろしい。蘇生魔術なんて使える人が居ない外では、文字通り死ねば終わりなのだ。

 安全策を取って、ここ数日では一階層の入口付近で弱い魔物をひたすらに倒した。スライムとかゴブリンとか。

 あと壊れたはずの壁はいつの間にか元通りになっていた。訳が分からん。

「はぁ~~」

 変わらず部屋には石碑がある。ため息をついてから触れると、文字が移り変わる。触る場所により反応が変わると分かってからは、少しずつ操作にも慣れてきた。


 アンリ・ルクスド・ボースハイト

 恩寵度:〇〇五(一増加)  能力:劣化無効

 一階層  累計死亡回数:〇〇〇〇三

 蜘蛛の糸に絡め取られる。そして──近寄ってきた爆弾甲虫ボムビートルの爆発に巻き込まれ、芸術的に散華した。


 死んだのはさておき、嬉しいことに恩寵度が五へ上がったのである。来た当初は三だったから二も上がったのだ。マナが体に満ちて身体能力の高まりを感じる。

「ウィル、面白い死に様だろう」

 辛いダンジョン生活で俺は癒やしを求めている。会話は心をとても落ち着けてくれるものであり、時たまこうしてウィルに話しかけている。ウィルとは水を汲むために出向いた草原で、運命の出会いを果たしている。

「ウィルは知らないだろうけど、恩寵度が五あると正規の兵士並。十もあれば上級兵相当なんだ。六十もあれば中級の竜種すら狩れるとか。歴史に残る英雄ってやつだ」

 効率的に魔物を狩れる環境は稀有だ。恩寵度を上げるのは戦闘経験も大事だが──手っ取り早い手段として〝相手を殺す事〟が挙げられる。

 殺し合いにより魂同士の関係は密接になり、決着が付けば相手が蓄えたマナの一部を魂に取り込めるのだ。

「マナによる魂の侵食。これが恩寵度──強さの基準だ。測定は専門の魔術士にやってもらったり、魔導具で代用することもある。王国では恩寵度じゃなくて侵食度って言いかえさせる動きもあるんだけど──これは宗教勢力を弱めさせる思惑があってな。おっと、ウィルには難しいかな?」

 恩寵度は百を超えてはいけないとは誰の言だっただろうか。思い出せない。

「……相変わらず寡黙だな。返事もしてくれないし、俺は寂しいよ」

 ウィルの頭を撫でる。すべすべとした手触りが心地よい。

「ん……何だ……?」

 入り口の方で大きな音がした。重い何かが落下する音だ。獣のような呻き声も聞こえる。

「カーナ、急いで武具を。俺の踏破点はいくらありますか?」

 剣はスライムに溶かされて鈍くなっているが、まだ使える。

《現状ですと五十ほど。一覧を表示します》

 読むのが面倒なほどの長大な一覧が浮かび上がる。ざっと見た所、武器種や防具種、それに材質が点数計算の基準になっているようだ。

「鋼鉄の軽鎧で」

《承知しました。三十点消費します》

 軽鎧──部分鎧とも言うのだろうか。それぞれのパーツを急いで装着すると、魔法鎧らしく体にフィットするように大きさが変わった。

「草原から何かが落ちたか……ウィルはここで待っていてくれ。俺が見てくるから」

 危険が心の警鐘を鳴らし、高まる胸の鼓動を抑えられない。

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