第4話 ダンジョン②
《蘇生魔術の実行──復活を確認》
頭の中に響く声で目が覚める。背筋が凍りつくような感覚がまだ残っていた。
「敵はどこだっ‼」
ガバリと飛び起きて、周りを見渡す。一番新しい記憶はスライムにこの身をゆっくりと溶かされながら死んだものだ。あれは夢だったのか? 高度な幻惑魔術だったのだろうか。
《マナ回収──上昇分恩寵度の初期化──致命的失敗》
石碑は何か失敗したらしい。心なしか声もしょぼくれて聞こえる。
《再試行──マナ回収──上昇分恩寵度の初期化──致命的失敗 。時間超過により試行放棄》
再度やるところに性格の悪さが現れている。どうやら致命的に失敗したようだが、俺の体の特性が影響しているのだろう
「ここは……石碑の部屋か? ならばさっき死んだのは夢なのか?」
周りを見回して確認したが、ダンジョンに入る前と何ら変わりがない。部屋の真ん中に石碑があり、その奥にダンジョンへ入る階段があるだけだ。
石碑をじっと見ると、こちらを馬鹿にするように赤く点滅している。目が痛いから止めて欲しい。
「言いたいことがあるなら……言えばどうだろうか?」
石碑の表面を軽く叩く。すると赤点滅が終わり、書かれている文字が瞬時に移り変わった。ご丁寧にも知っている言葉で書かれている。
アンリ・ルクスド・ボースハイト
恩寵度:〇〇三 能力:劣化無効
一階層 累計死亡回数:〇〇〇〇一
矢の罠で弱ったところを
俺の名前をなぜ知っているのか──背筋がゾクリとした。
どう見ても先程のダンジョンの挑戦結果だ。〝劣化無効〟は俺の生来の能力であるが、石碑は調べる手段を持っているのだろうか。恩寵度の三という数値も確かに合っている。
これは力の根源たるマナがどれだけ体に適合したかを示す値──魔術士の素養があれば魔術の威力に影響し、逆に戦士としての素養があれば身体能力を飛躍的に高める。
だが……世間一般的には魔術士の方が偉い。戦士は魔術士になれなかった、才能のない者とも言える。どんな人間でも鋤や鍬は振れるし──それは戦士の素養と似通っているのだ。体が頑強な者は重宝はされど、貴族的な名誉には欠けるところがある。
悲しいことに俺は圧倒的に戦士向きなのだ……まあ、それはさておき──
「累計死亡回数『〇〇〇〇一』ってどんだけ桁数を用意してるんだよ‼ 何回殺す気だ‼」
ふざけている。まるで俺が何万回も死ぬのを楽しみにしているようだ。
「なぜ……恩寵度という概念を知っているんですか? あなたは三千年、誰とも喋ってなかったと言っていた」
《秘密です。貴方に閲覧権限はありません》
「…………」
《…………お腹が減ってそうな顔ですね》
「死にそうなほど減ってますね。このままだと、二回目の死は餓死で決まりそうです」
恨み言を言うと、石碑の前に光の柱が顕現する。淡い光の跡には〝薄紙で包まれた細長い棒〟があった。
《
踏破点? 名称から察するにダンジョンを攻略した点数なのだろう。
「頂きます。感謝します石碑様」
毒が入っているかを確かめる術はない。可否はどうであれ、食わなければ死ぬのだ。
薄紙を破いて棒に齧りつくとサクッと小気味良い音。とても芳醇で、目を瞑れば広大な小麦畑が見えるようだ。味は蜂蜜に近い。
これは……美味い。一本だけで満足かつ満腹。まさに滋味あふれる食糧だった。
「美味い。昔の人はこんなに美味いものを食べていたのか」
《……本当に……美味しいと。嘘じゃないですよね?》
「確かに口の中の水分は全て失われたが、それを打ち消す美味しさですね」
《文化成熟度の違いとは恐ろしいものですね。それと踏破点と引き換えに様々な特典を用意しております》
「となると──古代の遺物ですか。質問だが在庫は無限なのだろうか?」
《秘密です》
「ダンジョン内での蘇生は無限に出来るのだろうか?」
《秘密です》
蘇生は神代の大魔術だ。おいそれと出来るものではない。
「なぜダンジョンに俺を潜らせようとするのですか?」
《秘密です》
「最後に……貴方の名前は?」
《──ル・カーナと申します。ルが偉大な家名、カーナが名前です。貴方の時代の命名法とは順番が逆ですね。これからもダンジョンを通じて末永いお付き合いを所望します》
一気に不安になる。だが……俺の生命線はこのダンジョンしか無い。まずは体を鍛えて、外で魔物を狩れるようになるまでは頑張るべきだ。
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