第2話 プロローグ②
それから半日が経ち、日が落ち始めて辺りが暗くなってきた。相変わらず建物などは見つけていない。
「これは死んだかも……。申し訳ありません母上……息子が今からそちらに向かいます」
独り言でも呟かないと精神が持たないし、そもそも俺が母上と同じ天の国へ行けるわけがない。
足が棒になりそうだが、それでも草原をただただ進む。夜の闇で生き延びられるとは思えない。
「──っぅう!」
踏み出した右足が地面を踏んだ瞬間。音を立てて地面が崩れた。体の制御を失った俺は土や草とともに、地中に落下する。
「痛たた……なんだ落盤か……」
幸運なことに怪我はない。上を見上げれば大人三人分はあろうかという高さがある。下の土がクッションになったせいか、骨折などはしていない。
「縦穴かあ。上には……うん頑張れば上がれるな」
壁面はただの土なので、頑張れば登れるだろう。しかしふと思う。この穴の中って安全じゃないかと。そうと決まれば話は早い。
俺は土を手でほじくって横穴を更に掘り、今晩の寝床のためのスペースを確保しようとする。これなら上から覗かれても気にもされないだろう。
ひたすらに掘っていると、何とそこには見たことのない材質で出来たドアがあった。
周りの土を落として全容を見てみる。
「何だ……これは」
見た目は大理石のようだが長い間地中にあったにもかかわらず一切の欠損が無い。触れば金属のように硬くヒンヤリとしている。
ドアを開けると空間が広がっていた。ドアと同じ材質の壁と天井。見た目には白の大理石のようで、窓は当然だが無い。部屋の中には墓のような石碑と地下へと続く階段がある。
俺は石碑のホコリを払い、読み取ろうとする。
「全く読めんな。これは……古代語か」
はるか昔に栄えた古代文明。今より進んだ魔法技術を持っていたようだが、長い歴史の中で滅んでいる。石碑の文字はその古代文明で使われていた字に酷似しているのだ。
《あ──ル──イン、────三、千────》
石碑を更になぞると頭の中に声が流れ込んでくる。聞いたことのない抑揚と発音、不愉快な感覚を我慢していると、次に聞こえてくるのは──聞き慣れた言葉だった。
《照合完了──発音を調整──ようこそ、人類。我々は貴方を歓迎します》
声の主を探す。部屋に人影は無し。魔術で声を飛ばしたのかと思ったが、よく見ると、部屋中央の石碑が光り輝いている。
《三千年ぶりの来訪者よ。ここは神々の領域》
聞いてもいないのに石碑は語りかけてくる。声は若い女性のものだが──石碑に性別という概念はあるのだろうか。
「食料はありますか?」
たまらずに聞いてしまった。
《そこの階段を降り、ダンジョンを踏破するのです》
俺の話は聞いてくれない様だ。そもそも石碑に意思があるのかが分からない。魔術により決まった言葉を繰り返している可能性もある。
「よし! 決めた!」
膝をパンと叩いて意思を固めると、地下へ続く階段が光り出す。あからさまにここに入れと言っている。
「草原で食料探してくる」
絶対に入らない。そう決めた。この十六年間、俺は暗殺から逃れる為に危機察知能力を高めてきたのだ。
だから思う。こんな罠っぽいダンジョンに入ってたまるかと。
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