思考
1
人は理解できないと思った事柄について「価値がない」と無意識的に断定する傾向がある。
かつて自分が「価値がない」と思ったものの価値を認められるようになれば、あなたの理解力が成長している証拠となる。
2
著者にそのつもりがなくても、勝手に勘違いする読者はあまりにも多い。
ミスのない文章を読むのにミスをしない人はほとんどいない。国語の試験がそれを示している。
3
新聞、ブログ記事、ネット小説その他は文章を流して読む癖がつく。その文章を味わう間もなく次の文を手に取っている。
私たちは油断するとすぐに豚のように情報を貪る。飢えは満たされるが、楽しむ余裕はない。
4
過度に覚えておこうとすればするほど、考えることがダメになる。
学び取ったことを自由に変形し、ぐちゃぐちゃにすることこそが考えることであり、学び取ったことをそのままの形で保存しようとすることが記憶することなのだ。
どの時代、どの地域においても、考えることの天才は、記憶は脳ではなく紙に任せ、頭の中には残骸と断片だけを残した。その残骸と断片こそが、新しい真理の建築材料であるということを彼らは理解していた。
5
私の考えていることは、未来の重鈍で丁寧な心理学者なり心理分析学者なりがその正しさを彼のオリジナルのものとして示してくれるだろう。
軽やかにスキップする私にとっては自明であるが、彼らにとっては甚だ疑わしいあいまいな命題であろうから。
6
すでに定められた正解をなぞるだけの勉強は少しも興味をそそられず、興味をそそられないことをつまらぬ目的のために我慢し続けた人間は、そのうち自分が何に興味を持っていたのか忘れてしまうであろう。
7
自己の社会的な成功を望む者ではなく、社会に自らの成果をもたらすことを望む者が偉大となる。
8
論理の形式の種類は無数にあり、そのすべてが自己肯定的である。
論理の形式のほとんどは未発見である。そこに学問の未来が隠されている。
形式とは土台と規則である。
キリスト教神学が科学よりも先にひとつの論理的形式を持っていたことに、人類は可能性を見出すべきだ。
あれほど自己矛盾的な形式を持ってなお、あそこまで壮大なものを自己肯定的に築き上げることができたという事実。
9
不可知論はそもそも「知る」ということの定義自体がぼやけていることに由来する。
私たちは「物自体」どころか「知る」ということすら判明できない。
10
この世界の命題には断定でないものはひとつも存在せず、そこにあるのは「単純な断定」と「複雑な断定」である。および、「矛盾した断定」と「矛盾しない断定」である。
常に正しいとされてきたのは「複雑かつ矛盾しない断定」である。
なぜならば、それがもっとも強い説得力を持つからだ。
11
人間以外に正しさを定める存在がいないのならば、人間が正しいと思ったことがこれまでの全ての正しさの根源であると言える。
科学的手法は複雑性を維持したまま矛盾がないことをチェックするのに有用な手法であり、科学は人間の精神にとって非常に都合がいいものである。
12
機械と鉱物の根本的な違いは「複雑性」と「統一性」にある。
「矛盾しないこと」はすなわち「統一性があること」である。
13
歴史上、民衆は複雑なものを理解できるだけの知能がなかったため「利便性が高いもの」に正しさを置いた。
それが宗教である。この歴史上において、宗教ほど人間の精神に役立ったものはない。
ただ現在は、宗教の代わりに科学技術と政治思想が隆盛を誇っている。それもいつかは終わることだろう。
14
民衆は科学の論理や内容を理解しないが、科学が産み出した技術を愛する。それは科学が美しく楽しいからではなく、科学が自分の快楽を満たすのに役立つからである。
15
通常、人間を無意識的に支配するのは思想であるが、思想を産み出すのは人間の意識や意志ではなく、人間の都合と欲望である。
よって、人間は己の都合と欲望に支配されていると思い込むのである。
16
起源と支配は似て非なるものである。
常に親が子を支配するわけではないのと同様に。
人間が猿に支配されていないのと同様に。
17
人間は複数の思想を持つことができる。思想が産まれる道筋は無数に存在し、その可能性も無数に存在する。
全ての思想が都合と欲望に起源をもつわけではない。
18
思想を持つこと自体に目的はないが、それを人に伝えようとすることには必ず内的な目的が存在する。
それが意識的にせよ無意識的にせよ。
19
私は何かを求めている。
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