信心深い無神論者

資本家連中は金を支配しているかのように思われるが、実態は逆である。彼らもまた、労働者たちと同じように金に支配されているのである。

いや、金によって、社会に雇われていると言った方が正しいかもしれない。



キリスト教は、あらゆる手法を使って生を否定しようとした。彼らにあったのは嫉妬心や憎しみではなく、純粋な吐き気であった。


彼らは支配者やならず者に対する憎しみや嫉妬を持っていたから生を否定したのではなく、支配者やならず者になりうる自分自身に憎しみや嫉妬を持っていたから生を否定したのである。


そして彼らは、吐き気を催すもの全てを滅ぼすことを画策した。そのために使えるものは全て使おうとした。

嘘も方便。キリスト教の歴史は、人を操るための心理学手法を余すところなく利用した痕跡が残されている。


皮肉なことに、キリスト教にとって最大の敵である支配者やならず者は、キリスト教内部において「教会」なるものを設置し、「神の国が地上をも支配する」という矛盾した命題を掲げ、己の欲望を満たそうとした。そしてそうすればするほどに、本質的なキリスト教徒が増え、より強固な地盤になるという奇妙な現象が起こった。


醜いものが地上に増えるほど、キリスト教が栄えた。しょせん人間は対比でしかものを見れないから。

そしてキリスト教は、己の存続のために自ら醜いものに成り下がったりもした。汚物を回りに飾れば飾るほど、穢れなき『聖書』の白さが映えるのである。


あぁキリスト教。あぁ狡猾な神よ! あなたは誰よりも狡猾だった。



生への嫌悪が蔓延っている。

「人間は回転しなければならない。人間は立ち止まって悩んではいけない。人間は立ち止まって悩みだすと、生への嫌悪を感じずにいられないからだ」

あぁそれは正しい。ただそれは、克服する前に逃げ出した人間のセリフに過ぎない。


生への嫌悪に正面から立ち向かった人たちがいた。生への嫌悪を我慢と復讐以外の方法で克服した人たちがいた。


美しいものを見るのだ。聖書は美しいが、聖書だけが美しいわけじゃない!


宗教は本質的に、芸術家が自らの夢を愛し、喜ぶことができるように、芸術家じゃない人間でも夢を愛し、喜ぶように捻じ曲げられた空想なのだ。


それは一種の慰みであり、本質的に矛盾したものなのだ。


私は敬虔な無宗教者として、一切の宗教を否定する。かつて多くの宗教を信じた人間として、全ての宗教は『信じるに値しない』と断定する。


しかし信仰心は持つべきだ。断固とした信仰心を持つべきだ。私が信じるのは、人類の未来である。いや、世界の未来であって、人類の未来ではない! 私は人類よりももっと優れた種が繁栄することを望む。その種もまたいつかこれまでの支配的な種と同様に没落し、より優れた種が産み出され続けることを望む!

永遠の上昇を、私は望む! その先に神などいない。「神などという限界」があってはならない。

有限の神などいないのだ。いるべきではないのだ。


キリスト教の神を考察した者たちは、それが無限であることを突き止めた。無限でなくてはならないと定めた。そこに彼らの正しさがある。

彼らの最大の正しさは「私は、神のことが分からない」と言ったところにある。

彼らの最大の誤りは「神は、私たちが神を愛するように望んでおられる」と言ったところにある。


なぜ、神を知らない人間が神を愛することができるだろうか? お前が愛しているのは「無限たる神」ではなく「人間に愛されたがっている有限の神」だ。無限たる存在が、なぜ愛されたいなどと思うのだろうか? あぁ、お前たちは神を冒涜したのだ。

虫けらが「人間は虫けらに愛されたがっている」などと言ったら、私たちは笑うだろう。そして、虫けらが私たちに慈悲を乞うたとしたら、私たちは気分次第によっては見逃してやるし、気分次第によって踏みつぶしてしまうことだろう。



あぁ、無限たる考えることのできない神よ。私はあなたを愛さないし、考えようと欲することもしない。


あなたは確かに概念上存在する。私は神が存在することに同意するが、私は神に祈りを捧げることはない。

私は神を尊敬するが、愛しはしない。


あぁ。神よ! もし私があなたに願うことがあるのなら、どうか私を導くのではなく、太陽のように、ただその暖かい愛情で照らしていただきたい! いつか海のような、広く大きく美しいベッドを用意して、私の死を待っていただきたい!


私は確かにあなたに感謝している。きっと、この先あなたを愛したくなることもあるだろう。いや、もうすでに私はあなたを愛しているのかもしれません。

だとしても、私はこの生を、自らの望むように生き抜きます。そうすることを、私は望んでいる。きっとあなたも望んでおられることでしょう! なぜなら、私は神を信じているから。


あぁ神よ。あぁ神よ……



神を信じることは、精神の慰みになる。あらゆる賢者はそのことに気づいていた。深く、理解していた。



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