【対話的考察】性欲
恋愛と性欲の違いについて。
少女「正直私は性欲っていうのがよくわからないんだよね」
少年「聞くところによると、女性は三十過ぎてからが性欲のピークになるみたいだね。そこまでは、憧れとか寂しさみたいなものが、その代わりになるとかなんとか」
少女「その話だと『憧れ』や『寂しさ』が恋の源泉になるみたいだけど、実際のところどうなの?」
少年「んー……そもそも僕の場合だと色んなパターンがあるんだ。『この子とずっと一緒にいたい』と思ったり『この子の裸を見てみたい』とか『抱き合って眠りたい』とか、それぞれ別の子に対してそう思ってたりする」
少女「ん? でもそれだと矛盾しない? 『Aちゃんとはずっと一緒にいたい』けど『Bちゃんと抱き合って眠りたい』だと、『三人で眠りたい』ってことになるけど……」
少年「いや、そういうことではないんだよね。Aちゃんのことを考えているときはBちゃんのことは忘れてて、Bちゃんのことを考えているときはAちゃんのことは忘れている、って感じなんだ。僕の場合。男がみんなそうだとは言わないけど、少なくとも僕は、そういう風に感じてしまう」
少女「やっぱりよくわからないなぁ。よくそれで気持ち悪くならないね?」
少年「僕も時々は嫌になるよ。浮気性だと思うし……変態だと思うこともある。でも、僕より歪んでる人なんていくらでもいるし、言っちゃなんだけど、僕はこれでもずいぶんマシな方なんだ。男の性欲は、留まるところを知らない」
少女「でも男にも、『恋』があるんでしょ?」
少年「あるらしいね。僕もそれらしきものを何年か前に感じたことがあるけれど、驚くほど早く気持ちが覚めたから、これもまた性欲が仮面を被ってやっていることなんじゃないかと思っているんだ。いや、もちろん『恋』をしているときは、その対象を性的な目では見ないんだけどね? ただ手をつなぎたいとか、愛されたいとか、そういうのを純粋に想い続けてしまうんだ。想像してしまうというか」
少女「そうやって聞くと、なんだか魅力的に聞こえる。私もそれくらい誰かに恋してみたい。でもそれってさ、自分の意志でできるものではないよね?」
少年「うん。もっと心の深いところから湧き上がるものだと思う。『好きだと思おう』としてそう思えるほど、簡単なものではないと思うんだ」
少女「話変わるんだけど、同性愛ってあるじゃんか? あれって性欲とどれくらい関係しているのかな?」
少年「場合によりけり、じゃない? そもそもノーマルでも異性に性的魅力を感じないっていう人は一定数いるし……まぁでも不思議だよね。性欲が子孫を残したいっていう欲求ならば、同性とセックスがしたいっていうのは、倒錯になってしまう」
少女「でもそれなら『オナニーがしたい』というのも倒錯になるんじゃない?」
少年「あれはあれで、性的能力を維持するのに役立ってるから……」
少女「同じなんじゃないの? 同性とセックスすることが、生物として何らかの意味になっている。ただ人間の頭ではうまくその論理が認識できないだけで」
少年「あり得るね。まぁそれとは別にトランスジェンダーとかは単にホルモンバランスだとか、遺伝子の……」
少女「なんかそうやって科学の便利用語使って単純化して考えるのは好みじゃないなぁ。私、トランスジェンダーの人の気持ち少し分かるもん。『女らしさ』って気持ち悪いし、私だって時々自分が女であることがおかしいと思うときもある。そういう気持ちが強くなっていけば、自然にトランスジェンダー的になっていくのかなぁって。そういう気持ちの動きをホルモンバランスとか遺伝子の異常とか、そういう言い方で説明してほしくない」
少年「そうだね。うん……ちょっと配慮が足りなかった、かな」
少女「いやごめん。私もちょっと語調強かったね。あとその話だと、同性愛も同じなのかな。誰か好きな人ともっと深くつながりたいと思って、その対象がたまたま同性だった、とか。そういうのがきっかけで、性的対象が絞られていっただけ、とか」
少年「つまり人間に備わった機能的な現象ではなくて、その精神の複雑性ゆえに起こる現象だ、と?」
少女「そう思いたい。恋もそうであったらいいと思う。性欲とはもちろん関係はあるけれど、決して同一のものでも主従の関係でもなくて、何だろう。もっと高度で複雑で多様なものであってほしい。ほら、性欲ってさ、単純らしいじゃん」
少年「単純だね。食欲、睡眠欲によく似ている」
少女「……あれか。食欲と、美食って全然違うじゃん? そんな感じなのかな。性欲と恋って」
少年「あぁ、それは言いえて妙だね。確かにそれはしっくりくるかも」
少女「それでいえば睡眠欲って『休みたい』っていう欲求だし『コタツに入りたい』とか『漫画読みたい』っていうのもそのバリエーションなのかな? そう考えれば、恋と性欲の関係って別に、何というか……そんな気にしなくていいんじゃないかな」
少年「でも、睡眠欲や食欲と違って性欲は、豊かになった現代でも満たされないことが多い。僕だってそうだし」
少女「あー。なるほどね。性的に満たされてないと、恋ってできないのかな。美食だって、食欲が常に満たされている人にしか理解できないものだし。睡眠欲も同じだね。休む暇のない人は『コタツに入りたい』とかって思わないもんね」
少年「そう。性欲が満たされてないときは、『恋』に魅力を感じないし、なんだか『恋』が性欲と同じものなんじゃないかと思ってしまうんだ。そんな時、僕は気分が悪くなる」
少女「じゃあ私は、性欲には憧れないけど『恋』には憧れてるから、性的に満たされているんだね?」
少年「君のことは僕にはよくわからないよ。女のことは本当によくわからない」
少女「まるで男のことはよく知っているみたいな言い方じゃない」
少年「男は単純であることが多いんだ。馬鹿であることが多い。それに僕は男だから、男の考えていることは想像しやすい。女の子が何を考えているかなんて、全然分からない」
少女「私はともかく、普通の女の子は基本何も考えてないよ。頭空っぽ。すっからかん。で、そういう子に限って笑顔がかわいい。なでなでしたくなる。猫に似てるね。猫が何考えているか謎だなんて言うのは、ナンセンスでしょ? だってほとんど何も考えてないんだから」
少年「……だとしてもだよ。だとしても、僕にとって君はやはり謎だ」
少女「それは私にとっても同じだよ」
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