【類型】青年

 ただただ明るくて、人が多い町だ。星なんてほとんど見えない。満月の存在感すらおぼろげだ。




 ところどころネオンがくすんで退廃的な雰囲気を醸している。でもメインストリートは新しい光で満ちていて、急進的な雰囲気もある。


 よくわからない街だ。去年も似たようなことを思ったような気がする。店の二三割くらいは入れ替わっているんじゃないか、などとあまり意味のない考察をしてみる。




 ただただ歩く。夜の都会は歩いているだけで楽しいものだ。人々の姿も、昼間とは違って個性的だ。


 現代人は、日が落ちてから自分自身に戻るみたいだ。昼間は社会の歯車だったピッチリスーツの七三分けも、今や千鳥足で次の店に向かっている。若者は相変わらずスマートフォン片手にため息をついていることが多いが、まぁ気にしても仕方ない。


 それにしても、スマートフォンってそんなに夢中になるようなものなのだろうか? 正直よくわからない。ゲームもネットサーフィンもラインも、時々触るくらいなら気持ちはわかるが、四六時中やるのは疲れないだろうか? 


 笑ってる人、いる? 時々いるな。ほんとに時々、スマホの画面を嬉しそうに眺めている人もいる。そういうのはいいんじゃないかな。素敵だと思う。年代物の虫の死骸が溜まった街頭よりは明るく見える。




 それにしてもやかましい。人の声で騒がしいなら活気があっていいのに、車のエンジン音だったり、信号機の警告音だったり、ただただ不愉快な機械が出す音ばかりで耳をふさぎたくなる。


 都会の嫌なところだ。田舎の夜は、その静寂だけで価値があるように思う。でも田舎は昼も静かだから、結局味気なさすぎる。だから都会を歩く。


 まぁまぁ。それにしても、現代の人々の声ってどうしてこうも醜いのだろう? 電子音ばかり聞いているせいで耳が悪くなってるんじゃないかな。みんなぼっそぼそぼっそぼそ。録音して聞いてみればいいのに。何のための文明化かよくわからないなぁ。


 現実から目を背けるのばかり上手くなっていっている気がする。建物をどれだけ高く立てても、背が高くなるわけじゃないのに。バベルの塔ってさ、多分自壊しただけだよね。それを自分たちの愚かさや計算ミスのせいにしたくないから、神様のせいにしたんでしょ。その方が納得できるなぁ。だって、そういうことする人身近にいっぱいいるもん。都合の悪いことになると、運命とか神様とか、あるいは社会のせいとかにするんだもん。やべぇよ人間。




 まぁ僕も人間だから、あんまり悪く言うのはよしておこう。AI万歳! なんて洒落にしても面白くないしね。何のための機械化かよくわからない時代だなぁ。人間が機械に奉仕する時代がいつか来る、なんて言っている人が前いたけど、もうすでに来てるじゃん。システムに奉仕してんじゃん。社会ってシステムじゃん。あはあはのあは。それでどうすんの?




 おっと、信号。通り過ぎていく車の色はなんだろう。個性的なのと無個性的なのの二種類しかないから、かえってその二極端に分類されてつまらないな。というか、無個性的なものが大多数になっちゃうと、本来ひとつひとつとして見られるはずの個性的なものすら一緒くたに「個性的!」で終わっちゃうよね。くっそつまらん。


 絵の世界とか、現代どうなってんのかな。ビジネス的な意味だと、なんか「あほくさ」で終わっちゃう気がするけど。芸術なぁ。綺麗なものは綺麗だし、美しいものは美しいんだけどなぁ。なんか、ダヴィンチが書いたみたいなすごい絵描く人現代におるんかな? ゲルニカとか、サイズ的には同じくらいかもしれんけど、最後の晩餐の方が迫力あって好きだな。両方見に行ってみたことあるけど、ゲルニカは、なぁ。なんか、わかるんだけど、好きになれない。美しいとも気持ち悪いとも思えない。


「ふぅん」って感じ。「それで?」って感じちゃう。ピカソの批判なんてしたくないけど、なんか、つまらなくならないようにしようとするあまり、むしろつまらなさが加速してるように思っちゃうよね。キュビズムとか。


 一つの画面に多角的な像を結ぶのは面白い試みだと思うけど、でも面白いで終わっちゃうよね。




 そこに痛みとか苦しみとか、美しさとか感動とか、そういうもっと実直で素直で、ただただ強い想いがこもっていないと、芸術として楽しめない。


 




 こんな街で芸術について真面目に考えている人間なんて僕くらいなんじゃないかな。みんな芸術について意見を求めると「なんかすごそう」「よくわからん」ばっかりだからなぁ。まだ政治とか宗教の方がマシだなんて馬鹿げてるよね。もっと感覚的に生きればいいのに。あぁでも、もっと理性的に生きればいいのにとも思うし、理論的に生きればいいのにとも思う。あれ、それじゃあ彼らはどんなふうに生きてんの? 虚無的。あはは。実際空っぽだと感じてばかりだ。




 輪廻転生が仮に正しいとすると、今人間が急激に増えすぎたせいで、急ごしらえの魂が溢れているのかもしれないね。いつも人間の魂は順番待ちだったはずなのに、いつの間にか人間用に使う魂が足りなくなって、本来ありんことかに入るはずだった弱い魂が人間に入っているのかもしれない。


 そりゃ、働き者も増えますわ。ありさんはちさん。わんちゃんは可愛いよね。好きだよ。




 心が貧しいって言ってくる人いるよね。空も見上げないで天気がいいだの悪いだの降水確率が云々だとか傘があるとかないとかくだらないこと言っている人が、他人の感性を否定する世の中なんだから、もう嫌になっちゃうね。


 面白い形の雲を探そうぜ。そこから始めようぜ。それ以下なんだから、明るい画面ばっかり眺めてわかりやすい形ばかり好んで、んで、そのわかりやすいものすら理解できずに、「もっとわかりやすくやれ!」っていう。僕は逆に「わかりやすすぎてつまらん!」って言いたい。ちがうなぁ。そうじゃない。「わかりやすくできちゃうような、簡単なことはわざわざ言うな!」「どれだけわかりやすくしても難しくなってしまうことこそ大事に伝えてくれ!」だな。


 まぁいいや。言っても伝わらないし。




 空の色は変わっちゃったなぁ。白熱電球LED。全部滅びてもいいんじゃないかなぁ。


 人が一人も死なずにうまいこと機械的なものだけ滅びるようなシナリオないかな。ないなぁ。依存してるもん。


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