【類型】母親
「でさ、この前ルイ・ヴィトンのバッグなくしちゃってさぁ。旦那に新しいの買ってって頼んだら、通販で勝手に頼んだうえに、パチモン掴まされてさ! 笑えるよね!」
私は満面の笑みで、ママ友たちに自虐風自慢をする。ママ友たちは怪訝な顔をしている。それを見るのが楽しいのだ。
他人が劣等感を感じているところを見ていると、自分自身の劣等感を忘れ去ることができる。私だって本当はこんなことしたくないけれど、生きていくには仕方ないことだし、みんなやってることだから、別にいいのだ。
「それで、その埋め合わせにって、色んなブランドもののバッグ買ってきてさ。もう、あの人ったら馬鹿なんだから。そんなたくさんあっても仕方ないのに!」
言うだけ言って、私は反撃される前に「それじゃあねー」と言いながら席を立つ。ランチ代にと万札をさりげなくテーブルの上に置く。貧乏人は、こうされるだけで黙る。私がいなくなった後、好きなように悪口を言えばいい。でも結局、奢られるがいいんでしょ? 貧乏だから。
不満なんて、生きてたらいくらでもある。不倫だって、このご時世珍しくないし、それこそ高収入の男性で全く不倫しない人なんて、いないと思う。それでも結局家庭が大事だし、私のことだってちゃんと愛してくれてる。私は、人よりずっと恵まれてるし、優れてる。嫌なことがあれば高いお酒でも飲みながら、似たような境遇の親友と愚痴ればいい。
高学歴、高収入の旦那をもらって、悠々自適に主婦生活。子供も産んで、順調に育ってる。ちょっと生意気な部分はあるけど、それは子供ならみんなそうだし、夫も私もそう言う部分がありながらもこの社会で成功してるんだから、それくらいでちょうどいい。
世の中なんて馬鹿ばっかだし、見下して当然。貧乏人は隙あらば自分たちよりお金を持ってる人の悪口を言うし、そのくせ、奢ってもらえるとなるとごまをすり始める。醜いったらありゃしない。ほんと、馬鹿ばっか。
「ママ! また全部百点だったよ!」
もちろん、あの人と私の子供なんだから、当たり前。でもちゃんと褒めとかないとグレるから、大げさなぐらいに甘やかしてやる。
「すごいじゃん! 見せて見せて!」
百点。百点。百点。三枚のテストは全部満点だった。小学二年生のテストなんて、百点で当たり前だと思う。内容もざっと見る限り、簡単だ。私が子供のころよりも簡単なように見える。自己肯定感を伸ばすためとか言って、点数を取りやすいようにしているのかなぁ。まぁでも、一問もミスをしないのは、我が子ながらしっかりしていると思う。
「偉いねぇ!」
私は大きな声でそう言って、我が子の頭をわしゃわしゃと撫でる。幸せを肌で感じた。
「ママ。それでさ……今度の日曜日、友達の勇気君の家にお泊りに行きたいんだけど? いい?」
「うーん。勇気君ってどんな子?」
「優しくて、かっこいい子だよ。勉強は俺の方ができるけど、サッカーは勇気君の方がうまい。ゲームも勇気君の方が強い」
キラキラした目で、そう言った。この子には、劣等感というものがないのか、と我ながら驚いた。
「悔しくないの?」
「悔しい? なんで?」
「ううん。何でもない。ちょっとお父さんと相談するから、明日まで待ってね?」
「うん!」
私は昔から、自分より美人な子、自分より優秀な子とは関わらないようにしていた。自分より下の子たちに囲まれてる方が男子にモテたし、褒められることも多かったから。高校も大学も、自分が入れるラインよりずっと下のところを選んで、いい女であることをアピールし続けた。結果として私は年収一千六百万の大手弁護士事務所所属の若手弁護士と結婚できた。記憶力はすごくいいし、知識は豊富。あまり性格はよくないし、天然っぽいところもあるけれど、私のことを大切にしてくれる、いい人だ。
きっと、父親に似たのだろう。勝ち負けにはこだわるけど、優劣にはそれほどこだわらない。
でも、なんだか自分の息子が自分ではなく父親の方に似ていると思うと、なんか悔しかった。
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