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「あぁ~」
またやってしまった。
水分を含みずっしりとした重量感があるパックが麦茶ポットの中で浮いている。
「タイマーとかつけてほしいわ」
百均で手に入れたポットにその機能は難しいだろう。
どうせ飲むのは自分以外いないのだからと、水面から顔を出しているパックの端を手でつまみ、シンクにぼとりと落とす。役目を終えたパックを、私はこうして半日ほど放置する。そうすると少しばかり乾燥するのだ。それを軽く絞ってゴミ箱に捨てる。以前恋人からなぜそんな無駄なことを、と小言を言われたが、私はこうしたいのだ。やることすべてが合理的でなくともよいだろうが。そんなこと口には出さずにその時は「なんとなく」と曖昧に返事をした。まさか別れを告げられた時に、「なんとなくで行動することが許せないんだ」と言われるとは思ってもみなかった。
パッケージのような爽やかな茶色は欠片も見当たらず、黒烏龍茶かと思うほどの液体をシンクに流す。五分の一ほどを捨て、水道水を新たに足す。少しもったいないと思うが、まぁいいだろうと後悔はすぐに水に流れた。
味が濃ければ薄めればいい。人間関係も薄めることができればいいのに。
チャイムが鳴った。
ほぼ同時にスマホも鳴った。
「留守でーす」
私の行動の結果なのだろうけれども、もう少し放置してくれないだろうか。
麦茶のパックが羨ましい。
掌編小説 ヤクモ @yakumo0512
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