第13話 テカテカ騎士団


「こっこーこっこーこー」


 酒場で毛食賊討伐のクエストを受けた翌日、クエストを共にするトリスタンと城の前で待ち合わせていた俺は、時間まで鶏と戯れるアズリエルさんを見てのほほんとした時間を過ごしていた。

 

 今日はこれから毛食賊退治だってのにのんきなもんで・・・そんな所が凄く良い!

 俺がアズリエルさんを見て鼻血を流す中、アズリエルさんはマイペースに空に飛んでいく鶏達に手を振り・・・

 

「そいつら飛ぶの!?」


 鶏って確か飛べないよね!?

 いやまぁゲームの世界だから飛んでもおかしくないんだけどさ、鶏に殺されるハイラルの勇者もいたぐらいだしおかしくはないか。

 

 一人納得したように頷いていると、頭をテカテカさせた兵士が近づいてくる。


「総統閣下、本日の定時報告であります!」

「うむ、坊主将軍大義である・・・ちなみにこれは君達の日記では無いんだぞ?」


 俺は〇月〇日晴から始まる小学生の日記か?という報告書をテカテカ兵士に返しながらノリノリで敬礼する兵士を半眼で睨むが、頭部のように爽やかな顔をしてやがる。


「たった一日で随分と兵士が増えたな、今何人くらいだ?」

「昨日の夜我が確認しただけでも100人はいたであるぞ?まぁ100人程度ではまだまだ村レベル、さっさと兵士の増員をする事をおススメするであるぞ」

 

 当たり前のように俺の横にいるマーソンを縛るようテカテカ将軍に命令しておく。 

 こいつは最近事ある毎に俺の傍に来ては知ったかアピールをしてくる、系統は違うと思うがランランの件もあるし油断は出来ない。

 

 しかしマーソンは顔はあれだが言ってる事は大体正しい。

 アズリエルさんに渡した金貨と雇える兵士の数から考えるに1万人近くは作れるし、100人というのは思ったよりも大分少ない。

 けどまぁアズリエルさんは例によって量産コマンドを使っていないから、こいつらは一人一人丁寧にキャラクリして作られてりわけで・・・それを100人というのはかなりの廃ペースと言えなくもない。

 一度キャラクリしている所をずっと見ていたが、ひとりひとりにかける時間がパナイ。 

 というか・・・

 

 俺は何やら地面にうずくまって日記を書く兵士に視線を向ける。

  

「なぁ、お前らって確かキャラクリされた時もうちょっと豊かな頭をしてなかったか?」


 兵士は一瞬何を言ってるんだこの馬鹿は?という目を向けてきたが、自分の頭を撫でて何かに納得する。


「ああ!それはアズリエル様のご指示で、産まれたての兵士はまず自分の髪を剃り献上するルールだからであります!」


 何そのルール?

 え?わざわざ髪をフサフサでキャラクリしたのに自ら剃らせてんの?

 

 口をムニムニさせながら、帰って来た鶏とじゃれるアズリエルさんを見ていると、更に後方からフード女が歩いてくるのを発見。


 あいつはどんな日でもフードなのか?ちらっと顔を見た感じ結構美形だったし、外した方が俺の目の保養になると思うのだが・・・ 


 フード女・・・神無トリスタンは、一瞬俺と俺の背後の兵士、それとがんじがらめにされたマーソンを見てギョッとしたような表情を浮かべる。


「す・・・すまない、待たせたな」

「いや、待つも何もここが俺の家だから待ってもないぞ?」

「そ、そうか?アーサー殿はお優しいな」


 開口一番誤って来るトリスタンに適当な返事を返したら、自分の行動を恥じているのか顔を少し赤くしている。


『トリスタン殿の好感度が10上がったであるな』

『お前は何当然のように俺に個人チャット送ってきてるわけ?』


 縛られながらもドヤ顔を崩さないマーソンを無視しておく。


 実際アズリエルさんを見ている時間は有意義だったし、なんならあと数時間ぐらい遅れて来ても良かったぐらいだ。


「さて、じゃあ行きますか・・・アズリエルさーん、トリスタンも来たみたいだしそろそろ毛食賊討伐に行きますよー」


 俺のチャットを確認し、鶏を肩や頭に乗せていたアズリエルさんがとことこと近寄って来る。 

 といってもまだまだクリック移動には慣れていないご様子で、途中変な所に移動しながらだが・・・果たしてここんな状態で、恐らく今から行くであろう洞窟とかの狭い空間を移動できるのだろうか?

 

 若干これからの討伐クエストに不安を抱く俺の前に、やっとの事でアズリエルさんが到着する。


「いってらっしゃ い」

「おう、さっさといってさっさとか・・・え?」


 聞き間違いかな?何か俺の予想と違う言葉が・・・

 耳をほじるモーションをする俺に、追撃のようにアズリエルさんのチャットが流れる。


「いってらっしゃい」


 おっふ、聞き間違いじゃなかったでござる。


「え?アズリエルさんは行かないの?」

「やる事が ある」


 そう言いながら金貨袋を見せてくるアズリエルさん。

 

「・・・さいですか」


 恐らくこれから兵士作りを再開するのだろう、自分から頼んだ事だし今更そんなの良いから行くぞとも言いづらい。

 俺は溜息を吐きながらトリスタンに視線を向ける。


「・・・じゃあ二人でさくっと行ってくるか」

「ふ、二人きりか!?・・・その御仁達は連れて行かないのか?」

「んー?」


 俺はトリスタンの視線の先で、がんじがらめに縛られたマーソンとテカテカ頭に唾を吐く。


「そいつらは留守番だ、というか今回のクエストは兵団の参加不可だからな」

「そ・・・そうか、男と二人きりか・・・」

『トリスタン殿の好感度が5上がったであぎゃふん!?』


 何やらモジモジしだすトリスタンを半眼に、マーソンを踏みつけておく。

 あーあ、アズリエルさんも行かない事だし、さっさとクリアしてさっさと帰るとするか。 


【洞窟のゴブリン退治:脅威度E:兵団の参加不可:推奨レベル5】

【空き領地を占拠したゴブリンを討伐せよ!】

【報酬:ゴブリン一体につき銅貨1枚】

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