第12章 円卓の騎士達
キャロット城より徒歩2分、閑静な住宅街。
城での汚っさん事件を解決した翌日。
俺はケツ・ホルグを売却する為新しく建設されたカフェイン錬金工房を訪れていた。
◇
「へぇーへぇーまさかボクの元に戻って来るとはネ!」
カフェイン錬金工房の店主が、白いふわふわ頭を揺らしながらケツ・ホルグを鑑定している。
「ああ、カフェインって何処かで聞いたと思ったら・・・こいつは元々アンタのクエスト報酬なんだっけか」
そういえば一時期ランランがカフェイン卿カフェイン卿うるさかったな。
となるとこいつはランランが使ったらしいHMとか言う悪夢のアイテムを作ったやつでもあるわけか。
「そうだヨそうだヨ!これはボクがまだ若かった頃に故郷で使っていた槍のレプリカなんだよ」
「・・・あんた今何歳だよ」
「およヨ?乙女にそんな質問はナンセンスだヨ!」
「失礼、女だったか」
「あはははハ!この槍をあげたヤツも失礼だったけど、キミも大概だネ!」
だって見た目まだ小学生入ってないくらいの出で立ちなんですもん。
ランランは女だから失礼な態度とったって所だろ?わからなかった俺と一緒にしないで欲しい。
「それで?元々アンタのもんって事は値段的には大した額にならないか?」
「いやいやそんな事はないヨ、これは作成段階で貴重な素材を大量に使っているからネ!」
クエストの必要素材は聞いた事があるが、準廃が頑張れば手に入れる程度の物だったと記憶している。
つまる話そこまで大した物では無いというのが俺の認識だが・・・金貨5枚くらいか?
・・・だとしたら一介の店に払いきれる額ではなさそうだ。
このゲームはNPCの所持金以上の取引を行う事は出来ないシステムを採用しているから・・・
「金貨100枚でどうサ?」
「悪い、少し面倒な客だった・・・は?」
思わず驚きモーションを放つ俺を、カフェインは悪戯っぽく笑う。
「ふふフ!イタズラ大成功!それで?金貨100枚では納得出来なかったかイ?」
「いや充分だ、大体俺の予想通りの額で安心したぜ」
とりあえず強気な笑みを浮かべる俺のインベントリに金貨100枚が追加される。
おっほう!これは下手な領土戦よりデカい収入ですねぇ!
「売っといてなんだがこんな大金よく持ってたな?」
俺は思わず緩む頬を直しながら咳払いを一つ。
「さっき君の所の軍師ちゃんが来てネ?明日からエンドの方に行くって言ったらこれを売ってきてくれっテ」
カフェインはガサゴソと棚の下から妙なぬいぐるみを取り出す。
「何これ?」
「さぁ?何でもこの領地のご当地キャラにしたいらしいヨ?」
俺はメケメケメケと変な声を出しながら小刻みに振動するぬいぐるみを見ながら、なんとも言えない表情を浮かべる。
「流石のボクもこれは売れないヨ!って言ったら、担保として金貨を50枚進呈してくれたってわけサ」
あの子は本当に何をやっているんだ?
というか金貨50枚ってこの前のランランから巻き上げた金全部だし・・・
城に帰ったら一度じっくり話し合う必要があるかもしれない。
「・・・で、残りの50枚は?」
「それはボクのポケットマネーさ」
なるほどこいつは金づるの匂いがする、アズリエルさんの事は置いといてこいつとは仲良くしといた方が良さそうだ。
「コホン、そういえばまだ自己紹介をしてなかったな、俺はアーサー、この土地の領主をしている」
「やぁやぁ君が件の領主だったのかイ?ボクはカフェイン・リッチ、しがない錬金術師さ、吸血鬼との茶会で忙しいからしばらくよろしくネ」
「贅沢にコーヒーを使ってそうな名前だな、この街で処理出来ない物が手に入ったらまた来るぜ」
「それは助かるネ、是非贔屓してくれヨ」
カフェインに別れを告げ錬金工房を後にした俺は、いそいそとインベントリから金貨袋を取り出す。
さてさて、大金も手に入った事だし・・・
「おっと、第一村人発見」
子連れの村人とすれ違う瞬間、俺は金貨袋をわざとらしく広げる。
「あーあー、これっぽっちしか手持ちが無いなー、ナイナー」
「ぺっ!」
村人は唾を吐くと、子供の目を隠しながら極力俺と目を合わせないように走り去っていってしまった。
「まったく、最近の連中は領主に挨拶も・・・おっと手がすべって100枚の金貨を落としそうになってしまったゾー?」
「ぺっ!」
これまた俺と鉢合わせた老婆がゴミを見るような目で唾を吐いて立ち去ってしまった。
く・・・くっく・・・あいつらあまりにうらやましいからって、さてお次は・・・
「あーさー なにしてるの」
次の目標を探す俺の視界に、最近見慣れた文章が流れる。
「どうしてここにアズリエルさんが!?・・・俺も領主だからな、たまにはこうやって街の下見をしなくてはならないんだよ・・・」
「・・・たいきんゲットで みせびらかせて る かまってちゃん」
「べべべ別に!?決して!?大金を見せびらかせったいわけじゃないぞぉう!」
俺はどもりながら、手元の金貨袋をアズリエルさんに渡す。
ちなみに貢いでるわけじゃないぞ?
「なんで?」
「何でアズリエルさんに金貨袋を渡すかって?それで更に軍の補強をして欲しいんだよ」
「そう」
無表情に金貨袋を見つめるアズリエルさん、普通のやつなら何か欲しい物を連想してたり、悪い事を考えたりするんだろうが・・・
「重を しゅたいに 弓と馬」
この子に限ってそれはないだろう。
というか流石に軍備金では変な事はしない子だと信じたい。
まぁこの調子でアズリエルさんには馬車馬のように兵士を量産してもらわないと困るからな。
最近は少しアズリエルさんに心を動かされているが、あくまで俺にとってアズリエルさんは養分だという事を忘れてはいけない。
「ねえ あーさー」
決意新たにアズリエルさんに視界を移すと、アズリエルさんが小首を傾げている。
くぁwせdrftgyふじこlp
「冒険者ギルド」
「あ?ああ・・・何でまた?」
俺が唇を噛みながら我慢する中、アズリエルさんの頭の上にチャットアイコンが表示されは消える。
「のぶにゃが 討伐」
「・・・のぶにゃがの毛食賊討伐依頼をするにあたって、ついでに冒険者ギルドのクエストも達成しようって事だな?」
「そう」
アズリエルさんの文章の解読は慣れたもんですよ。
「なんと!我の時と良いアーサー殿は人の心を覗く術をお持ちであるかな!?」
「持ってねぇよ、てかいたの!?そしてちけぇ、離れろ!」
ずずいっと俺に顔を近づけるマーソンを押しのけながらも、ニート細胞を活性化させる。
確かにこのままのぶにゃがの依頼だけを達成するより断然効率が良い、それにのぶにゃがは国境の領地と言っていた・・・誰だれの領地ではなく・・・だ。
つまりそこは誰も所有していない空き領地、民衆の支持が貰えれば誰でも領主になれる土地。
そして民衆の支持を得るのに最適なのは・・・クエスト。
しかものぶにゃがの領地の隣だから、警備するまでもなく領地の安全は保障され、俺達は領民からの税収のみを受け取るだけという美味しい立場を手にする・・・流石のアズリエルさんもここまでは考えてないだろうがな。
「よしわかった、じゃあ行くぞ」
「ん!これで しょくみんち ゲット」
・・・もしかして俺よりもっと先を考えついてたりするのだろうか?
アズリエルさんの底知れぬ知略にたじろきながらも、俺達は目的の場所に到着。
「よいっしょっと」
とりあえず入口のゴミをかたずけて中に入る。
冒険者ギルドは相変わらずガランとしており、壁一面に張られた張り紙が少し多くなったか?というイメージだけを残す、それ以外は以前来た時と全く一緒、なんかいつもいるつるっぱげ親父と眠そうな受付、そしてフード女。
俺が言うのもなんだがこいつら暇なのか?まぁいい。
俺は前来た時に毛食賊のクエストが貼ってあったあたりの壁を見る。
「・・・更新されてるのか?」
そこには既に毛食のクエストは無く、新しいクエストが貼られている。
「流石にもうないかー、こうなったら受付を叩き起こして・・・」
「まって」
音がよく響く金属を持ちながら受付に近づく俺を、アズリエルさんが止める。
「止めてくれるなアズリエルさん、俺は領主として働かないやつに正義の鉄槌を・・・」
「ちがう これ」
「これ?」
そう言いながらアズリエルさんが見せて来たのは、クエスト用紙の後ろに張られたクエスト用紙。
・・・なるほどな、この受付がわざわざ更新したとも思えないし、大方古いクエスト用紙の上にそのまま張り付けたのだろう。
「・・・と、なると・・・あったあった!」
目的の物を見つけて笑みを浮かべる俺の肩を誰かが掴む。
驚いて背後を確認すると、以前にも話しかけてきたフード女の姿。
「お前・・・ゴブリンか?」
「ああ、今回はそうだ」
「そうかなら都合が良い、私も連れていけ」
「・・・戦力は多い方が良いから良いが・・・あんた戦えんの?」
見た感じはただのNPCに見えるが・・・
俺の訝し気な視線に、フード女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「す、すまない、私は神無・トリスタン、勇者をしている」
「へぇ神無さんね・・・・勇者ぁ!?」
「ゆうしゃ まおう!」
俺とアズリエルさんが目を見開く中、なーぜかついてきたマーソンが思いついたように知恵袋を解放する。
「トリスタン、確か遠方の地で悲しみの子という意味であったであるな」
「へー、マーソンはおっさん顔なだけあって物知りだなぁ」
「当然である!我は天才故な、それと我はまだ10代であるぞ?」
「はいはい10代10代(笑)」
感心しながら頷く俺にドヤ顔をかますマーソン。
「なる かみなしのこ」
「アズリエルさん?その誤字は可愛そうだからやめてあげような?」
カミナシの顔がフードの下でもわかるほどに真っ赤になっている、ありゃ相当おこだな。
「それでカミナシも毛食退治なのか?」
「そうだ、私はとある呪いをかけられているのだが・・・信頼できる情報筋より私の呪いをなんとか出来るかもしれない存在について聞いてな・・・それと私の事はトリスタンと呼んでくれ」
へぇ、そんな物を毛食族がねぇ。
存外それが原因でゴブリンの亜種になってたり・・・そんな訳ないか。
まぁ勇者だってんなら問題ない、戦力は充分だろうし、正義の味方が卑怯な真似をするわけねぇもんな?
俺は下種顔を浮かべながらトリスタンに手を差し出す
「よろしくな、トリスタン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます