第11話 大賢者マーソンの臭い


「なるほど、これは失敗作だな」

「おいお主、人の顔を見るなりいきなり失礼であるな?」


 現在俺は、キャラクリに失敗したというアズリエルさんに連れられキャロット城に帰還、そしてアズリエルさんが作った割にお世辞にもイケメンと言えないおっさん顔と対面していた。



         ◇


「この子 すてーたすいじれない」

「そうなのか?」


俺も軍団に関しては知識が少ないからなんとも言えんが、確かこのゲームでは相当細かく設定出来ると聞いた覚えがある。


「せってい も これはたいへん」


 なるほど、確かに大変だ。

 アズリエルさんがここまで慌ててるんだ、恐らくカーボンやエレンのような夫婦設定程度の物から、君主への忠誠度などの重要ステータスも操作不可能なのだろう。

 これが操作出来ないとなると領地の内乱率がグッと上がる。


 しかもステータスを覗こうとしても、一般プレイヤーのようにプライバシー設定がかかりやがる。

 なんなんだコイツは?

 

 俺は椅子に縄で拘束されるおっさんを睨む。


「お前、自分の設定と名前を言ってみろ」

「我は時空の旅人にしていずれグラフ三世の名を受け継ぎし者、今は訳あって名前を明かす事が出来ぬので賢者マーソンとでも呼ぶがよいぞ」

「おk把握、グラフ三世だな?」

「むむ!?まさかこれ程速く我の正体を見抜くとは・・・お主中々やるであるな?しかし今はその名で呼ぶ事を禁ずるである」


 こいつは馬鹿なのか?

 しかし時空の旅人?何だその設定は?


「アズリエルさん、これは間違いなくバグだ。運営に報告するべきだ」

「でも けされちゃう」

「こいつは消されるかもしれんが放置してたら後々困るのは俺達だぞ?」


 少し悲しそう?な表情を浮かべるアズリエルさんに心を痛めていると、マーソンが唐突に笑い声をあげだす。


「くっくっく!貴様等、先ほどから我を消すだの、ハグしたり放置プレイしたりして凌辱するだのよくも恐ろしい事を、だがいいのであるかな?」

「良いって何がだよ?あとハグじゃなくてバグ、放置プレイじゃなくて放置、凌辱するとか言ってないしするつもりも無い」


 ツッコミを入れながらも、マーソンから画面越しとは思えない程の圧力を感じ俺は椅子からずり落ちそうになる。

 そんな俺を見透かしているかのように、マーソンは悪い笑みを浮かべる。


 よくよく見ると謎の黄色い靄のようなエフェクトが浮かんでいる。


「な、なんだよ?やるってのか?」

「くっくっく、そんな野蛮な事はしないである、ただこの椅子には呪いをかけさせてもらったである」

「の・・・のろい?」


 若干ビビりながらマーソンから椅子に視線を移した俺は、椅子から若干水滴が落ちているのに気が付く。

 よくよく見ると黄色い靄は椅子から出ており・・・そういえばモンスター避けの玉に似たような・・・


「・・・ただ漏らしただけじゃねぇか!」

「くっくっく、この椅子に座れる者は相当な猛者であるよ」

「うるせぇよ!?その椅子高かったのにどうしてくれんの!?おいアズリエルさん、はやくこいつを運営に」

「おっとそれ以上言って良いのであるか?我にこれ以上の恐怖を与えるとなると、更に腹の中の恐ろしい物を」

「うるせぇよ!!それただの糞だろ!?」


 今はこやし効果は椅子にしかついていないが、こんな所で糞を暴発されたらこの部屋全体にこやし効果がついちまう!なんて恐ろしい事を!


「・・・わかった。運営には報告しない」

「わかれば良いのである、では折角なので我の話に戻るであるが」

「・・・とりあえずトイレ行って来いよ」


 どこまでもマイペースなマーソンに頭痛を感じながらもテディに椅子の縄をほどくよう指示を出すと、テディが縄をほどきながらそっと個人チャットを流してくる。


『アーサ王、このゲームにはトイレという物は存在しません』

『おいおい、じゃあ普段皆どうしてんの!?』

『我々はゲーム世界の住人故トイレに行く必要がありません』


 どこの昭和のアイドルだ!そしてこいつはどうやって漏らしたんだよ!?

 というか何か?じゃあこいつはこれからずっとあの汚いパンツのまま過ごすってのか?しかも城中にこやし効果を蔓延させながら?


「その事に関しては心配いらぬであるよ、ふん!」


 俺が恐怖におののいていると、縄から解放されたマーソンがどこからか取り出した杖を掲げる。

 ナチュラルに人の思考を読むんじゃないよ。・・・というか!


 俺は何もない空間に突如と現れた真っ白な扉に目を見開く。


「な・・・なんだそれ!?」

「これは異次元の扉、我が相棒たる美の妖精により存在する、どのような場所、どのような次元にも移動できるどこでもドアである」


 おおい何だそれは!バグ通りこしてチート青狸じゃねぇか!? 

 

「とは言ってもこれは我しか中に入れないであるがな、・・・おっとロウよ、トイレにつなげるである」

 

 そんなチートアイテムをトイレの為に・・・

 

 俺はゆっくりと開く扉の向こうに、マーソンが言っていたであろう妖精らしき人影を見つける。  

 美の妖精という言葉に少し興味を持っていた俺は、扉の向こうをチラリと盗み見る。 

 このゲームにそんな種族は存在しないし、美っていうからには・・・いや、俺は何も見なかった。


 扉の向こうでウィンクするハゲゴリマッチョにゲンナリしながら何も見なかった事にしておく。 


「・・・しかしアズリエルさん、あいつどうするよ」

「どう って?」

「明らかに常軌を逸してるだろ?このままこの城で野放しにしてると最悪俺達が垢バン、追い出したら他のチーター共がゲームを荒しまくる、おまけにデリートしようにも多分あいつはなんとかして生き残りそうだ」

「・・・ばん ちーたー」


 アズリエルさんはしばらく黙り込むと、何かに納得したように首を少し縦に振る。

 ああ、多分調べてたんだな、オンゲ初心者に垢バンって言葉はあんまり馴染みがないだろうし。


「まーそん は 特殊」


 アズリエルさんは考えるようにポツリポツリとチャットを流す。


「すてーたすは プレイヤー と おなじ つまり」

「・・・あくまでプレイヤーと言い張る?」

「ん!」


 なるほど確かにそれなら俺達への被害は最小限に収められそうだ。

 運営に何か聞かれても知らぬ存ぜぬで通せば最悪俺達のデータは残るかもしれないし、他のプレイヤーから見たらただの他プレイヤーにしか思わないだろう。


「・・・仕方ない、明確な解決策が見つかるまではその方向でい」

「ん 解決 それより 同盟教えて」

「同盟?ああ、のぶにゃがとの話か」


 アズリエルさんがコクコク頷く。

 同盟っつても普通のオンゲーと同じで・・・ってそうだった。

 なんやかんやで頼りになるからオンゲ初心者って事を忘れそうになる。


「そうだな・・・つっても大きなルールは一つ、同盟期間中は領主の許可無くお互いの陣営にターゲットを向ける事は出来ず、お互いの領地を侵略する事は出来ない」

「むけることは できない?」

「そうだ、ターゲットを向けようとしても向けれない」

「むけれない だけ?」

「ん?そうだが・・・」

「なる じゃあ のぶにゃがとの約束」

「あれは単なる口約束だ、つってもあの情報は既に拡散しといたし、もし俺達の陣営に他陣営が攻めて来たのに守りに来なければ・・・周辺国に睨まれて大変な事になるだろうよ」


 アズリエルさんは俺の邪悪な顔を見ながら首を縦に振るが、少し間を置いて首を傾げる。


「あれ でも」


 その後またフリーズしたかと思うと、少しだけ目を見開く。


「もしかして ハメられた?」

「は?今の話で何でそんな話に「誰がナニをハメたのであるかな?」のわぁぁ!?いきなり出てくんな!?」


 急に顔だけ戻って来たマーソンを見て、再び椅子からずり落ちそうになる。


「お主ら我がいなくなった途端に剥くだのハメるだの卑猥な話をするのはやめた方が良いであるぞ?」

「聞いてたのかよ!てか卑猥なのはお前の脳みそだろうが!」

「何を言うか!これでも我が眼は真実を捉えるである、げんに今も!」


 そう言いながらマーソンが窓を開けると、外に見知ったホモを見つける。


『ああ!我が愛しのマイダーリン!さぁ私とハメハメしまし』


 俺は勢いよく窓を閉める。


「それ見たものであるか!」


 マーソンの言葉に頭を掻きむしる。

 くっそ!もうランランが攻めて来る時間だったか!?

 あの野郎待ち合わせでもしてるかのように毎日決まった時間に攻めてきやがって!


 そんな発狂寸前の俺をよそに、アズリエルさんは無表情に、淡々とマーソンに手を差し出す。


「まーそん よろしく」

「こちらこそよろしくであるぞ!」


 ・・・はぁ・・・とりあえずマーソンの漏らした椅子は一番遠くの場所に配置しとくか・・・



【マーソンが キャロット陣営に加入した】

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