第二章 10話 のぶにゃが来訪
侍の国エンド 世界領民数1位 世界領土数3位 戦勝ランキング4位 月間死亡数1位
古くから領主を一対一の神聖なる決闘で決めるこの国には無数の領地が存在し、資源が豊富で領民も多い変わりに、疫病がや内乱のせいで人の入れ替えが多い。
そしてその国の頂点に立つのが、安土ピーチ山城を本拠にする織田のぶにゃが
一対一の決闘をよしとするエンドにて、サモナーという職で相手を封殺し頂点に立ったプレイヤー。
彼女曰く、召喚獣もみゃーの体の一部にゃ!との事だ。
可愛いは正義、可愛いは作れるをもっとーにエンド領を開拓。
現在はのぶさーの姫として君臨している。
◇
《第二章 毛に悩まされし者達》
「それで?エンドの総大将がこんな辺境の地に何か用か?この前みたいに攻城戦に来たっていうなら仲間呼んで袋叩きにするのもやぶさかではないが」
「にゃっはっは!そんな怖い顔しなくても今回は戦を仕掛けに来たわけじゃないにゃ!・・・それに」
からから笑うのぶにゃがの目が肉食獣のように細まる。
「残念ながら今日は護衛を連れてきてるからにゃ、仮にこの前みたいな奇襲を受けても返り討ちに出来るにゃ」
「護衛?そんなの見当たらな・・・」
い、と言おうとした所で画面の下の方に二足歩行の猫を見つける。
ケットシー、猫又、はたまたアイルーとでも言えば良いか?
「ワタシの配下の一人、かっちゃんにゃ!」
のぶにゃがの紹介と共に、かっちゃんと言われた猫が握手を求めてくる。
「ワシこそが織田家の猫柴田、柴田かつねこだ(渋い声)」
俺は愛くるしいフェイスを掻きながら、凄むモーションをするかつねこを半眼で睨む。。
いや、どうやっても凄めてない、しかも自分から渋い声とかチャットに書いてるあたりは逆に失笑すら覚える。
まぁだがのぶにゃがの配下って事は相当の腕利きレベル、恐らく元ネタであろう柴田勝家の事を考えると傑物レベルもあり得るか。
「というかアーサーっちは昔みゃーがキャロットに進軍した時に会った事があるはずにゃ」
全く記憶にない、あの時はランランがのぶにゃがを男だと判断しててんやわんやだったし・・・
それにもしいたとしたら、それこそランランが発狂してたと思うんだが・・・?あいつ♂だったら猫でもいけそうだし。
「悪いが記憶に無い、それで?そんなやつを連れて攻城戦をしにきたわけじゃないなら、何をしに来たっていうんだ?」
「そんにゃのモチロン同盟を結びに来たにゃ」
「・・・ほう?ランキング4位の大御所がランキング1万台のウチにか?」
「例え道端の雑魚でも、今は猫の手も借りたい状況なんだにゃ」
正面からのぶにゃがと睨み合う。
自分で言うのには問題ないが、他人に言われると腹が立つ事というやつだ。
一瞬即発の空気、そんな中間の抜けたチャットが流れる。
「あーさー」
アズリエルさん?確か今は城で絶賛兵士の量産中のはずだったが・・・
目的地を上手くクリックできず、ノロノロとこちらに走り寄って来るアズリエルさんに視線を向ける。
アズリエルさんは俺の近くまで来ると何か切羽詰まったような無表情を浮かべ、隣ののぶにゃがの存在に気づく。
「ね ねこ発見 ほかく」
「にゃにゃ!?いきにゃりにゃにを!?やめ、やめにゃー!?」
急に眼を怪しく光らせたアズリエルさんがのぶにゃがに抱き着き・・・おお!服が!
「ふーむ、美少女同士の組んず解れつ、素晴らしい」
「気があうなアーサー王、これぞまさに国の宝よ」
そんな二人を若干前のめりで凝視する俺とかつねこ。
「というかお前はそれで良いのか?領主があんな事になってるんだ、助けるべきだろう?」
「何を馬鹿な事を、姫は自分が目立つ事を第一に考えておられる、見てみい、今もこちらの反応を見ておる」
かつねこがターゲットをエンゲージし、俺の視界がのぶにゃがを捉える。
(チラッチラッ)
あ、本当だ。
なんかそう考えると急に萎えてきたな、やっぱアズリエルさんこそ至高か。
そんなアズリエルさんはのぶにゃがの猫耳に満足したのか、恍惚の無表情をこちらに向けたかと思うと、かつねこに視線を移す。
「にゃ にゃんこにんげん!」
おっと、どうやらアズリエルさんのターゲットが変わったようだ。
「よし、バッチコイだ」
両手を広げアズリエルさんを迎い入れるポーズをとるかつねこの首元を掴み、アズリエルさんから遠ざける。
ふむ、「にゃーにゃー」言いながら向かってくるアズリエルさんを見ていると何か・・・!
新たな道を開きつつある俺に、今度はウェルカムポーズをしていたかつねこが喚きだす。
「そ、そんな!?アーサー殿、後生ですぞ!離してくだされー!」
お前自己紹介の時に比べてキャラが変わりすぎなんだよ。
というか話がちっとも先に進まん。
なんかカリスマ対決っぽい雰囲気を出すのも馬鹿らしくなってきた。
「はぁ・・・それで?同盟の内容は?」
「内容も何も、みゃー達はキャロットを攻めず、他国が攻めてくればみゃー達が命がけでまもってやるにゃ、まぁ強いて言うならその間アーサーっちには少し近くの領地に行って欲しいにゃ」
「近くの領地に?それはつまり俺たちがいない間に城を落とすぞ?って事か?」
「そんにゃ事したらエンドの信用問題にゃ、心配にゃら国で二番目の美人と言われてる私の妹を人質として進呈するにゃ、おねち!」
まぁ国取り合戦において信用が無くなるのは後々困るか、強豪が多い今の状況で信用が無くなれば来月にはランキング圏外だろう。
それに現在総戦力がガタ落ちしてるキャロットには願っても無い話・・・卑怯ごとを可愛いは許される!で通すのぶにゃがに防衛を任せるのはあれだが、人質を出すと言う程度には本気みたいだし・・・というか人質に興味はないが国で二番とな?
期待に胸を膨らませる中、おねちと言われた少女が前に出てくる。
・・・うん、まぁNPCだから仕方ないか。
というかおねちちゃんがアズリエルさんとのぶにゃがという二大キャラクリ美少女に囲まれて涙目になってるし、ああ!「私なんかがすみません」とか言い出しちゃったよ。
「わかったわかった、同盟は組んでやるよ」
「にゃは!そう来なくっちゃ、アーサーっちには浅井長政の如き働きを期待してるにゃ」
「・・・あーさーい ながまさ」
「にゃはははは!アズにゃんは面白い事いうにゃ~」
「それほどでも ない」
俺は無表情なままのぶにゃがにハグされるアズリエルさんを半眼で見ながらニート細胞を活性化させる。
浅井長政、知らない人はあまりいないだろう戦国大名にして織田信長の義弟。
のぶにゃがは俺と義弟の如く仲良くしたいと?
否、答えは断じて否。
恐らくのぶにゃがが言いたいのは義弟になった後、織田家を裏切り破滅の道をたどった所だろう。
つまる話・・・
「俺が裏切ったという大義名分を片手にキャロットを攻めたいといった所か?」
「にゃは!アーサーっちは想像力豊かさんだにゃ~みゃーはそんな事考えもつかなかったにゃ」
そうは言っているが目が本気だ、わざわざカリスマエモーションを使ってくるという事は肯定してるも同然だな。
こいつは相変わらずの腹黒猫だ。
「・・・まぁ良い、それで?俺はどこの領地に・・・何をしに行けば良い?」
「場所はエンドとプリテンの国境にゃ、そこで勇敢なアーサー王が毛食族の討伐をしてくれると嬉しいにゃ~なんて?」
のぶにゃがは甘えたように俺に抱き着くと、上目遣いで目を潤ませる。
こいつは俺に色仕掛けが効くとでも思ってんのか?
「モチロンオーケーだ」
効くに決まってんだろうが!
ただでさえ最近恐らく中身おっさんであろうアズリエルさんにキュンキュンしてるんだ、ゲーム内美少女にそんなあざとく迫られたら断れるわけないだろうが!
・・・だがまぁそんな事は口が裂けても言えないしバレるわけにもいかない、のぶにゃがの目が獲物を見つけたような目をしている気がするが俺の被害妄想だろう。
「げふんげふん!それで?のぶにゃがはその間に何をしてるんだ?まさかただ俺達の領地を守ってくれてるだけではないんだろう?同盟関係なんだ、その辺も教えろよ」
「流石アーサーっちにゃ~・・・じゃあ今ヴルハラのオウテンと魔王軍のさーたんが各地で戦争を起こしまくってるのは知ってるかにゃ?」
「・・・初耳だな」
あいにくと俺はキャロットに引きこもってばかりだし、キングオブレジェンドでは各陣営の内情は機密工作だらけ、公式のランキング情報以外で周りの国がどんな動きをしているか等知りようもない。
だがそれとエンドがどういう関係があるというのだ?
「なる 今の内に軍備を整えて 漁夫の利」
俺は無表情に手を叩くアズリエルさんの言葉に納得する。
確かエンドには他の国に無い程無数の野良領地が存在していた。
のぶにゃがはそれを突貫工事で吸収合併させていったわけだから・・・
「なかみ ぐちゃぐちゃ」
アズリエルさんの言う通り、恐らくエンドは一揆に継ぐ一揆でまともに動けないのだろう。
徐々に明かされていくエンドの実態に頷いていると、さっきからアズリエルさんをまさぐっていたのぶにゃがが、急にアズリエルさんを正面から睨む。
「おみゃー、何者にゃ?」
「アズリエル だよ」
「それはさっきも聞いたにゃ、そうじゃなくて・・・」
「何が言いたいかはなんとなくわかるが諦めろよのぶにゃが、それは多分天然だから頭で考えるだけ馬鹿らしくなるぞ」
「まぁ良いにゃ、今日は面白い奴に会えただけでも豊作だと思って帰るにゃ」
のぶにゃがは来た時とはうって変わった冷たい空気を発しながら、街の入り口に歩を向ける。
「相変わらずめんどくせえ奴」
「あーさー 楽しそう」
む?顔に出てしまっていたか?
こんな邪悪な顔をアズリエルさんに見せる訳にはいかない。
俺は急いでエモモーションを戻す。
「というかアズリエルさんは何で俺を追いかけてきたんだ」
「そうだ った」
アズリエルさんは何やらアタフタしながら俺の袖を掴む。
「しっぱい した」
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