第6話 第一回防衛線作戦会議

 キャロット城中央、作戦会議室

 軍団雇用により急激に増えた兵士の為作られた会議室。

 今までは空き部屋として何も置かれていなかった部屋がなんという事でしょう。

 壁にはアーサーが急いで作った軍旗が飾られ、中央には13個の椅子にかこまれた円卓。

 

 今日はランランロット迎撃作戦の為、指揮官たる面々が集められているようだが?

 

      ◇


「チキチキ、第一回キャロット防衛作戦会議ー」

「いえーい」


 俺のテンション高気な宣言に、アズリエルが無表情で合いの手をいれる。

 こういう馬鹿に付き合ってくれるあたり、最初に比べたら大分打ち解けてきたんじゃないかと思っている。

 おっと、アズリエルはあくまで養分だ、向こうがなつくのはかまわんが間違っても俺が情を移す訳にはいかない。


 考えを再認識、顔を引き締めていると金色の髪をした赤い騎士が挙手する。


「何かな赤い騎士君?」

「は!恐れながらチキチキとはどういう意味でしょうか?」

「それは俺も知らない」

「そ、そうでありましたか!失礼致しました」


 赤い騎士は俺に敬礼すると、そのまま席に座る。

 こいつは少しマジメが過ぎるな、ノリという物を理解していない。


 溜息を吐きながらも手を叩く。


「じゃあまず今回の勝敗条件の再確認からいくぞ?」


 俺が立ち上がると、先ほど発現した赤い騎士の隣の赤い騎士達が地図を広げる。

 こいつらは赤い騎士のコピー体

 もしかして雇う兵士全部にキャラクリとか設定をつけなきゃいけないのか?という俺の疑問に、「りょうさん コマンド おかねあれば」とアズリエルが言ったので金貨を投入、そして出来上がったのがこいつら。 

 こいつらは名前だけじゃなく見た目も性格も全く一緒、俺にはどいつがどいつか見分けがつかない。

 アズリエルは見分けがつくらしいが、「うみだしたべいびー だから」と意味不明な理屈を返されてしまった。


「知らないやつも多いだろうからまずこのゲームの勝敗の決め方だが、総大将が死ぬか士気が0になった方が負けだ、とわいっても今回はプレイヤー1対2の戦だから、ほぼ士気に関しては気にしなくて良いと思う」 


 俺とランランのどちらかが士気0というのは、詰まる話どちらかが戦闘不能になってる時だろうからな、伊達に数年もの間二人で士気100%は維持していない。


「ちなみに戦開始から1時間で引き分けというシステムもある、なので俺は今回城で待機、各々ランランの足止めに尽力してもいたい」

「たおすひつようは ない?」

「そうだ」


 俺の言葉にアズリエルが納得したように沈黙する。


「次に我が軍の兵士の数だが、現在は重歩兵50、弓兵30、騎兵5、騎士3、その他2に加え、俺とアズリエルさんの2で合計92人だ」


 本当はもうちょっと兵士を増やしたかったが、俺の残金と今夜という急な攻城戦予告の為アズリエルのキャラクリが間に合わなかった。 

 

 俺の視線の先ではアズリエルが家畜小屋から連れて来た鶏をかかえて「こっこーこっこーこけこっこー」とか言っている。

 この子あんまり量産コマンド使いたがらないんですよ。

 まぁ数だけなら圧倒的優勢だし、いくら強いランランでもそう簡単には突破出来ないだろう。


「そして次はランランロットに関してだが、メイン武器は剣でサブ武器が槍の生粋の歩兵だ」

「けんがメイン?」

 

 アズリエルが首を傾げる。

 まぁあいつを少しでも見た事があるやつならそういう反応になるだろうな、あの背中のイチモツはそれだけインパクトがある。


「あいつは元々剣主体の戦闘スタイルだったんだよ、だがとある戦でお気に入りの剣が折れてしまってな、たまたま進行中だったクエスト報酬のケツ・ホルグが気に入って使い続けている」


 そういえばその時あいつに新しい剣を用意するって言ってそのままだな、約束は守ってやりたいが、あの時のあいつの剣の性能レベルの剣なんて早々見つからないだろうし、入手も困難・・・その辺で拾った剣をレアだぜ!って言って渡すか。


「そしてランランの今の武器がケツ・ホルグ、自動で相手の急所に飛来し一撃で掘りぬくユニーク武器だ」

「ぼうぎょしゅだん は?」

「ああ、一緒に戦った間でやつのケツ・ホルゾを防げたやつはいないな、鋼鉄だろうが貫くしどんなスピードにも追いつく、まぁ男限定だがな」


 あいつのおかげでこの城に攻めて来る男は一気に減った程だぞ?まぁおかげで当初多かった入団希望者も一気にいなくなったわけだがな。


 俺の説明にアズリエルが挙手する。


「ランランは おとこしか攻撃しない?」

「あ、ああ」


アズリエルがコテンと首を傾ける。

ぐぅ!?何という破壊力!?

落ち着け・・・アズリエルさんはおっさんアズリエルさんはおっさんアズリエルは養分アズリエルは養分・・・よし!


「な る それで おんなばかり?」

「え?あ、ああ」


 アズリエルが納得したように頷いているがどういう事だ?俺はただハーレム軍団を目指しただけだが・・・


「折角だしアズリエルさん、皆に俺の意向を伝えてくれるか?」

「らんらんは おんなをこうg」


 コクリと頷いたアズリエルはそこまで言うと、再び頭上にキーボード無しのアイコンを表示させる。

 だから諦めんなって!

 

 頭を抱えていると、NPCの中で唯一赤い騎士じゃないテディベアが挙手する。


「恐れながら、アズリエル様の変わりにワタクシが説明しても?」

「構わん」


 こいつも何か理解してんの?もしかしてこの場で理解してないのは俺だけだったりするのか?

 不安に思って赤い騎士を見るが、彼女達もわかっていないようだ、良かった。


「ランランロット卿は女を攻撃出来ない、出来るにしても男を相手にするほどの力は発揮できない、それは構成員がほぼ女しかいない我が軍は天敵という事、つまりアーサー王が女ばかりの軍団を作っていたのはこの事を見越してという事であります」

「「「な、なんだってー!?」」」


 赤い騎士と俺が驚愕に打ちひしがれる中、アズリエルが納得したように頷く。


「らんらんをじゅうほへいでかこんで」


 アズリエルはそう言いながら手の中に小さな炎を生み出す。


「えんきょりから しとめる」


   ◇

 キャロット城近郊の大森林

 全く整備されてない低レベルの魔物しか出ないこの森に、白タイツの化け物がゆらりと出現する。


「さて、そろそろ攻城戦の時間ですね」


 ランランはステータス画面の時間を見ながらニヤリと笑みを浮かべると、相棒のケツ・ホルグを掲げる。

 思えば私はいつもアーサーと共に戦ってきた。

 そしてその戦場から貞操を守り切った男は、味方であるアーサーを除いてただの一人もいなかった・・・

 

「そう、我が愛しのアーサーを除いて!」 


 ランランは滾るパトスを抑えきれないように息を荒げる。


「アーサー、今宵こそ貴方の貞操・・・もらい受ける!」


 まるで肉食獣のように目を光らせるランランは攻城戦開始の合図と共に森を疾走し始める。

 勝敗条件は色々あるが目標は一つ、アーサーの尻のみ。


 森を抜けるまで1分、街から城まで1分、城でアーサーを掘るまで1分。

 

「待っていろアーサー、尻を掘るまで・・・3分間待ってやる!」


 ランランがそう叫ぶと同時に、何処からか火の玉が飛んでくる。


 ダメージは大した事ないが、この程度なら・・・はっ!?

 ランランは野生の勘じみた物で急ぎ移動、次の瞬間先ほどまで自分がいた場所に矢の雨が降り注ぐ。


「なるほど、あの火の玉は弓兵に位置を知らせる為の物か・・・!」


 ランランは舌打ちを一つ。 

 それにしても術兵だと?キャロットでは術兵を雇う事は出来ない筈だが・・・


 ランランは続いて飛来してくる火の玉を回避、気の陰に隠れながら火の玉が飛んできた方向を凝視する。

 

 満点の星空の下、月の明かりだけが夜空を照らす中、昼間に見た翼をもった少女がこちらを見下ろしている。

 青い髪と白い翼は月の明かりを吸収したように淡く光って見え、その光景はまさに幻想、さながらホモでなければ魂まで持っていかれない姿に、しかしホモであるランランは憤怒の形相をあらわにする。


「あの・・・泥棒猫・・・!そこまでしてアーサーと私の恋路を邪魔したいか!


 ランランは目標を変更し少女に接近、しかしその目前に複数の敵対反応を検知。

 現れてくるのは何処を見ても女、女、女。


「この軍団は・・・?なるほど私のこの槍が男しか貫けない事を考えた作戦ですか、確かにこの槍無しではいささか時間がかかってしまう・・・ですが」


 ランランはこちらに飛来してくる火の玉を回避、上空でこちらの様子を伺っている娘を睨む。


「てき しんぐんていし かこめ」


 飛翔する少女が手を振りかざすと同時に重歩兵の女達が距離を詰めてくる。


「このまま うごきをとめる」

「・・・私の槍が女を攻撃出来ないことはアーサーから聞いたのか?なるほど、理にかなっている」


 しかし私の弱点を知っているアーサー相手に無策で来たとでも?

 小賢しいアーサーの事だからこのぐらいの策は用意してくるとは思っていた。

 こんな時に宴会を開くような愚王と同じにしてもらっては困る。


 ランランはインベントリからフラスコ型のアイテムを取り出すと、地面に向けて投げつける。


「リッチ・カフェイン卿最終クエスト報酬、とくとご覧あれ!」

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