第5話 キャラクリ軍団
チカチカとパソコンの光が点滅する部屋の中、無精髭を生やした男が大きく欠伸をする。
「んあ~?もう8時じゃないか・・・今日は随分とよく寝たな」
5時間も睡眠をとったのは何か月ぶりだ?流石に7徹もしたから体が睡眠を欲っしたのだろうか。
俺は部屋の前に置いてある冷めた夕飯をデスクトップPCの熱でほんのり温めながら、放置していた画面に目を向ける。
「とりまいつもの日課を・・・っと、ランランはもういないんだったっけな」
俺は苦笑いをしながら、「おはー」と打ったチャットに苦笑いを浮かべる。
ランランは昨日追放したからもうここにはいない。
なんやかんやでランランは相当強かったし、いつも俺と交代で見張りをしていたから俺がログアウトしている今、誰かに攻められたら陥落する。
正直少しはやまった感はあるし、もしかしたらここはもう俺の領地じゃないのかもしれない。
まぁでも俺の尻の安全が第一だったからな、後悔はしてない。
さーて、今日は防衛線を固める為にアズリエルに会いに行かないと・・・
俺は画面のチャット欄を見て硬直する。
「おはようございます陛下、そろそろお戻りになられると思いエスカルゴのソテーを用意しております」
「・・・そうか」
いつの間にか用意されたテーブルに、兜で顔を隠した兵士がエスカルゴのソテーとやらを置く。
見た目は凄いゲテモノだが・・・
差し出されたソテーを食べていると、兵士から再びチャットアイコンが現れる。
「いかがでしょうか?」
「・・・多分美味しいんじゃないか?ゲームだから味はわからんが」
食事効果で少しバフがかかったステータスを見ながら適当に返事をしておく。
「それは良かった、コック兵もさぞ喜ばれるかと」
「・・・そうか」
俺の無言をどういう風に捉えたのか、兵士が懐から書面を取り出す。
「本日の戦果でございますね?アーサー王不在時、二回敵の進軍がありましたが全て撃破、殲滅してあります。敵方の証言によれば、ランランロット卿が追放されたのを好機と見たとの事です」
やっぱり狙ってきていたか。
敵の城は兵士が一人もおらず陣地に入るだけで勝利だと?普通はそうするし俺でもそうする。
だが少し情報漏れが早すぎるな、ランランは言いふらすようなやつじゃないし・・・何か嫌な予感がしないでもない。
兵士はそれだけ報告すると、俺が平らげた食器を手に部屋から退室する。
「思ったよりも敵の動きが速い、これは早急に手を打たねば・・・だがその前に」
俺は深く溜息を吐き、リストラされたサラリーマンの如く地面を見る。
「あいつは誰なんだよ・・・」
◇
「おはよ アーサー」
「おはようアズリエルさん、そしてこれは何事ですか?」
サービス開始してから数年間、俺とランラン以外誰も居なかった幽霊城を歩く兵士三人を目で追い、地面に座り込んで何かに集中するアズリエルに話しかける。
「やとった」
まぁ状況から見たらそれは容易に予想出来る。
アズリエルが集中して見ていたであろう用紙を俺に手渡す。
それと同時に三人の兵士が俺に傅く。
「おかねないか ら さんにん」
アズリエルは順々に兵士を指さす。
「あれが テディべアであれがかーb」
テディベアと言われた少し筋肉質な男が敬礼をする中、アズリエルの頭上にキーボード無しアイコンが現れる。
「いやアズリエルさんそこは諦めんなよ、大事な所だろう!?」
アズリエルは頬を膨らませたように(妄想の中で)かーbと言われた兵士を肘でつつく。
「ワタクシはカーボンネック、そしてこれは妻のエレンです」
初老のおじさんくらいのカーボンネックの挨拶に、エレンと言われた兵士が兜を外す。
包丁を持ってる辺りこいつがコック兵というやつだろう。
「とは言ってもワタクシ共はアズリエルさま作成の元作られた赤子のような物ですがな」
ガッハッハと豪快に笑うカーボンは中々の迫力がある。
「しかし・・・作られた?」
兵士ってその辺のNPCを雇うんじゃないのか?
「ちが う」
アズリエルはそう言いながら新たに一枚の用紙を取り出し、何かを思い出したかのように固まる。
「おかね もうない」
「そういう事なら俺が出す、アズリエルさんの部下って事は俺の部下ともいえるしな」
「・・・うん」
金貨を1枚アズリエルに渡すと、申し訳なさそうに小さく呟いて用紙に何かを書きだす。
「なまえ きし せいべつ おとこ」
「へぇ、そこから決めるのか?というかあいつらもそうだがもうちょっと名前は考えてやれよ、それと性別は女な」
「わかった」
アズリエルの頭の上にチャットアイコンがしばらく流れていたが、面倒になったのか素直に性別を女に変えている。名前は・・・赤い騎士・・・色つければ良いってもんじゃないからな?
用紙は名前と性別が書かれると宙に浮かび出し、人の形をかたどっていく。
「そして きゃらくり」
アズリエルさんはそう言うと、目をキラキラさせながら?キャラを弄っていく。
なるほど、つまりこいつらは全てアズリエルのお手製キャラって事か。
見た所プレイヤーレベルの細かい調整は出来ないようだが・・・
男二人もそれなりに美形と言えなくもないし、エレンの方はワンチャン俺でもいけるかも?ってレベルには美人、やはりアズリエルのキャラクリは凄いな・・・
しかしキャラクリは少し時間がかかるみたいだな・・・
「そういえば俺がログアウトしてる間に二回襲撃受けたんだって?どこが攻めてきたんだ?」
「ひとつは かきゅうもんすたー達」
ああ、攻められたって言っても下級モンスターが攻めてきたくらいか、大したことな
「もうひとつ は えんどの のぶにゃが」
「・・・パードゥン?」
アズリエルが「ぱーどぅん?」と首を傾げているがそれどころじゃない。
え?は?あののぶにゃがが!?
レジェンドオブキングでも巨大国家の一つ、侍の国エンド。
現在天下統一にニー三番目に近いと言われている国の・・・それも総大将が攻めてきたのか!?
「ゆだんしてた テディとなぐった」
ああなるほど、のぶにゃがは確か猿、キジ、犬を召喚して戦うサモナーだったからな、通常戦闘に置いては紙装甲といっても過言ではない。
大方誰も居ない城に入場で即陥落ラッキー!と侵攻してきたは良いが、占領されない領地に困惑、そこをアズリエルに奇襲されて仲間を召喚する前に袋叩きにされたって所か?
総大将一人で攻めてきたのは単純な準備不足だったって所か。
しかしのぶにゃがか、やつはランランにネカマだとばれて大変な事になってからキャロットに攻めてきた事はなかったが・・・ランランが居なくなったから攻めて来たと考えるのが妥当か。
だが隣国とはいえエンドは広い、ランランがいなくなったタイミングで偶然近くの国境にいたとは思いづらいが・・・
俺が頭を悩ませていると、唐突に画面が光だす。
よくよく見るとキャラクリが完成し、半裸の女が傅いている。
「ここから すてーたすと せいかく」
「そんな所までいじれるのか?」
「うん」
アズリエルは首を縦に振ると、赤い騎士の頭に手を乗せ何やら黙り込む。
どうやら性格とかの設定は目では見えないらしい。
「しかし・・・」
俺は少し前屈みになりながら赤い騎士の谷間を覗き込む。
素晴らしい、エレン同様美少女とは言いづらいが、ほんとワンチャンいけるで。
これはアズリエルを上手く誘導してハーレム軍団を作るのも手だな。
邪な考えに頬を歪ませていると、赤い騎士が光に包まれ、目をゆっくり開く。
「かんせい どや」
アズリエルがVサインをする中、赤い騎士が俺に向けて深々と傅く。
「お初にお目にかかります、この赤い騎士、アーサー王の為剣を振るう所存であります」
「アーサーにちゅーぎをつくす まじめせってい」
グッジョブだアズリエル、特にこのくっ殺感が素晴らしい。
舐めるように赤い騎士を見ていると、赤い騎士ははっとしたように腰の剣を引き抜いて俺を突き飛ばす。
「俺に絶対服従の奴隷じゃなかったっけ?」
「そこまでせっていしてないし たぶんあれ」
若干冷たいような目線を俺に向けていたアズリエルが、地面に突き刺さった矢文を指さす。
「申し訳ございません陛下、あの矢が陛下のお尻に刺さる寸前だった為つい・・・この赤い騎士一生の不覚!この罪はせめてこの首で!」
「いやいや良いから!?むしろ俺を助ける為によくやってくれた。うん、特別に俺の側近として俺の世話をする事を許す」
「陛下・・・!ありがたき幸せ・・・」
顔を赤らめ、目を潤ませる赤い騎士、チョロいぜ!
「これ しりぶみ」
赤い騎士にニヤニヤしていると、アズリエルが矢から文を取り出している。
いや、そんな日本語は無いからな?
「たし」
「・・・たし?」
もしかして読めないとか無いよな?そういうロールプレイか。
無表情で紙と睨めっこするアズリエルから紙を奪う。
〖果たし状 拝啓我が愛しのアーサー王、お元気ですか?貴方の愛人ランランロットです。
先日城を追放され、自分なりにアーサーが何を見据えているのか考える時間が出来ました。
そこで私は槍の師匠であり、ケツ・ホルグの真の所有者である錬金術師、リッチ・カフェイン卿から助言を手に入れ一つの仮説を思いつきました。〗
そこまで読んだ俺の目の前に、システムウィンドウが現れる。
「どした の?」
「・・・今夜ランランが攻城戦を仕掛けてくる事になった」
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