第百七十話 移住、大忙し、、


ダンマスは一週間後の同じ日にまた1000人ほど送ると言ってきた。

民間第二陣の分の家屋はある。

が、第一陣が新ムータンに引っ越すまで一ヶ月はここドラゴニア王都に滞在する予定だ。なので、あと3000人分、ざっくり400世帯分の家が足りない。


なぜ誰も気が付かなかったのかは誰も知らない。


なので、ドラゴニア側とダンジョン側の両方の滞在予定地にあと200軒ずつ増やすことにした。

時間があるので、各班から建築したい者達を集めてやらしてみる。今で来てるところの空き家を参考に同程度のを200軒ずつ。


ゴンザールからも応援を貰った。ゴンザール側は頑張ったのか100人も大工を送ってくれた。最終が来る4週間後までに50軒ほどを目安にを頼んだ。


民間移住者達の研修は各班リーダーとサブリーダー達が集まって相談して決める。

と言っても最初と同じく、「何をやってみたいのか?」で選ばせる。希望人数があまりにも偏った場合、ほかから班員の応援を貰う。基本は、やってみたいことをこちらからの都合で変更させない。


ただ、

「応募人数が少ないところのほうが、よく面倒を見てもらえるよ」とは事前に言っておく。

なのであまり差が出ない。勿論農業班に半数以上が集まる。自分の経験がある方がいいと思うのは仕方がないかもしれない。が、彼等が思っている以上のアドバンテージにはならないだろう。世界が違うのだから。

しかもこっちでは農業は治水も行わなければならない。


こちらに来た翌日に班分け。その翌日からもう働き始める。一日分の経験、というものは大切だ。


朝、現場に出ると、新人達は魔法の朝練をする。彼等はまだ言語魔法を使えないが、ドラゴニアの子たちが言語魔法を覚えだしたので、最初はどうにかなる。研修中に言語、飛行、ストレージの魔法を使えるくらいまでになるのが目標だ。ムータンから来た者達は、身体強化は既に皆そこそこできるようになってこちらに来ている。


魔法の鍛錬を少しやった後に仕事を始める。その仕事をやったこと無い者には一から教える。だが経験者には作業を見せればそのうちに理解する。材料などや道具などは違うだけで、目的は大体変わらない。


研修の第一の目的は、自分の言動全てに責任を持って生きているようになってもらうこと。それだけあれば、何をやっていようが大した問題では無い。その”責任”の概念をこちらのものにする必要もある。仕事を通じ、ドラゴニアの皆の言動から、それを少しづつわかってもらうしかない。


だから ”話すこと” が重要なのだ。


理解のすれ違いは ”正しさを” 幾つも作り出してしまう。その場合、殆どの正しさは似非でしかない。が、それを信じ込んでいれば、もうそれは狂信と同じものだ。その結果が聖光国であり、リターニャでありゲスサンスでありゴーミだった。それらは感染症と同じだ。あそこまで行ってしまえば殲滅するしかない。他のまともな者達を汚染させないためには。


アタマがおかしい者ほど悪を助けようとする。他者に自分を押し付けようとする。それは害悪でしか無い。何が善なのか何が邪や悪なのかを正しく理解できていないと、そうなってしまう。


より多くの者達、より多くの考えの違う者達とより深く話し合うこと。それによってのみ、人として、生き物として何が正しいのかそうではないのか、が少しづつ判っていく。


多分、ムータンから来た者達の中には、ゲスザンス程度の者もいるだろう。でも、そういった者が改心しない場合、淘汰されていくだろう。寄生虫や害虫を見過ごさないのがこちらの世界の人びとだ。居づらくなった者達はゲスザンスやゴーミに行くだろう。行くのは自由だ。が、再度こちらに入るときには、モモンガ達に認められるような人物でなければ飛ばされるだけだ。


幸い、ムータンは一つの家族は多人数なので、あまりおかしな者にならないだろうとは思われる。正しく叱ってくれる者がいればいるほど、ひとは捻じくれない。




翌週第二陣が来た。

第二陣はダンジョン側の街に入れる。まだ第一陣の集落に追加で作っている建物は出来上がっていないから。

第一陣と同じく、来たそばから仮屋に入ってもらい、夕食は第二陣全員でとる。近衛の司令官やガンダ達の説明、翌日に仕事を決める。1000人来ても、働き手は400人程度だ。子どもたちは学校に行かせている。移住者達の子たちには午後も授業を行い、魔法と剣を教える。

様子を見て、なるべく早いうちに午後から仕事の班に入れる予定。


その翌週に第三陣。王都側の集落に入る。あとは前回と同じように。

そのまた翌週に第四陣。この辺になると各班の移住者の数も多くなり、つまり班員の割合が少なめになるので、近衛部隊の者達も指導員として各班に入ってもらう。


翌々週、第一陣の者達がとりあえずとして、新ムータンの王都や周辺に入ってもらう。このときには、近衛兵と国王側近たちからなる新ムータン移住本部の一部も新ムータンに入る。

ドラゴニアから行くのは魔法と剣の教師、医療班のみ。影に徹することになる。


二ヶ月目も5千人にしてもらう。まだ流れができていない。

第一陣からの1000人がサブリーダーとなるくらいになれば、月1万人も可能になるだろう。



ムータンの先発隊の3000人、ドラゴニアの中枢の者達、各班のリーダー、サブリーダー、ドラゴニア防衛隊の冒険者達。これらの者達は休み無く働いた。

民間第一陣の者達がリーダーになるまで、と思って。


新ムータンに入った者達、最初に誰も居ない街や村に入った者達。そのもの達はほんとに頑張った。

が、あとの方になると、わがままな者も出てきた。二ヶ月目の終盤頃からだ。

全て用意してもらって当たり前だと思い込んでる様子だった。


その話をドーラとユータが聞いた時、

2人は無言で新ムータンの地図をじっくり見はじめ、2人はある場所を指差した。2人同時に同じところを。ドーラとユータは無言でニッコリし、転移で消えていった。


翌日昼過ぎに汚れて戻ってきた2人。

「ガンダ、わがままな奴等だけの村を用意した。今までわがままで困ると言われている奴等だけ連れてきてくれ。その身だけでいい。これは俺の権限で行う。この世界での矯正施設だ。」ドーラ


夕方前にその数十人が連れてこられた。皆不満をぶちまけている。


そこにはドーラ、ユータ、司令官がいる。そのわがままな者達を連れてきたガンダや近衛兵達も当然いる。

「こいつらの家族は?」ドーラ

「ほとんどまとも。連れ合いも持て余しているのがほとんど。夫婦でわがままなのもそこに3組みほどいるけど、じいさんばあさんと子供は至って健全だ。」ガンダ

「では、後で俺が残った者達に言う。そのものたちだけ食事後、別に集めといてくれ」ドーラ


「司令官、この世界、俺の同盟内では身勝手なわがままは容認しない。なので矯正としてやつらのみで自給自足をしてもらう。ウチの者は駐在させない。月に一度見回りに行くだけ。そちらでも誰も置くな。わがままを言える対象を置いては矯正にならない。いいな?」

「わかりました。」


司令官はわかった、わかっていた。

それは同盟の社会全ての根幹に関わることだ。身勝手なわがままな奴等を容認するということは、同盟内でそのようなものを容認するということになる。

それはムータン王国の身勝手なわがままということだ。ドーラは許さないだろう。つまりムータンは同盟から外されることになる。しかも国内に身勝手なわがままをはびこらせることになる。そうすべき理由など無い。


「矯正村に入るか、もしくは、同盟から追放となる。ちょうどゲスザンスというクズが多い国?があるので、そこに追放だ。そこに行った場合はもう二度と戻ってくることはできないだろう。人間がかなりまともにならないと国境を超えられないようになっている。どうする?」ドーラ

「お慈悲である矯正村でお願いします。」司令官

「わかった」


ドーラはそいつらをその村に転移させた。ドーラと一緒に行ったのはユータのみ。


いきなり小さな村に飛ばされた奴等はより一層文句を言い始めた。その内容も聴く価値なしのわがまま。

「黙れ」と言霊を使い黙らせるドーラ。


「おまえらの身勝手さはこの世界にとってとても害悪だ。

おまえらを残さず消してもいいのだが、ムータン国王と移住計画司令官の顔を立て、とりあえず更生の機会を設けてやった。

ここでお前らは自給自足をしてよい。いやなら他国に追放だ。お前らみたいなのばかりいる国だ。そいつらはお前らより強いし、お前らよりよほど魔法が使える。お前らはそいつらの奴隷になるか、飯のたねになるかだろう。魔獣の餌になるってことだ。


追放を望む者いるか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・


「よし、では自給自足していけ。で、たまに見回りに来る。お前たちが見えないように、、」

パッとドーラの姿が消えた。それを見たユータも姿を消した。

で、すぐにまた現れた。ユータも姿を表した。


「このように消えて見に来る。その時にまともになっている者から向こうに帰す。もしくはひどくなっているか全く改心していなければ、追放する。転移でその場で追放先に送る。

では精々改心することだ」


ドーラとユータは姿を消した。


その場で言霊は解かれ、ある者は発狂したように怒りだし、あるものは震えだし、あるものは呆然とし、あるものは泣き出した。でも、一部の者達は大きな建物を目指した。


で、その最も大きい家を自分のものにするために殴り合いを始め出した。


隠密で隠れて見ていたドーラとユータ

(だめだこりゃ)


ーー


「と、いうことで、お前らの家の、今居ない者達は矯正施設に送った。お前たちも行きたいなら送ってやる。が、いいように使われるだけだけどな。どうする?行きたい者、いるか?」ドーラ

・・・・・・・・・・・・・・


「でも、いつか、会えるのかな?」男の子

その子の周りを見ると両親がいない。

「おまえのとこは父ちゃんと母ちゃんか。可愛そうだが、それはおまえの父ちゃん母ちゃん次第だ。いい人になれば帰ってくることが出来る。もっと悪くなれば国から追放だ。」


今は移住者達の夕食後。身勝手なわがままな奴等の家族達を前に、ドーラが説明していた。


(一ヶ月後くらいに、その母親だけどっかの無人の村にでも連れてきて、この子を合わせてみれば?)ユータ

ユータ、たまに冴える。

(うん、やってみるか)



平和と幸せは自由に貰える「権利」ではない。自分達で作り出すものだ。

だから、身勝手を許すことは出来ない。

身勝手わがままは他者の自由を冒す。他者の幸せを食いつぶす。

寄生虫や病原菌のようなものだ。


ただ、


自分たちで平和や幸福を作り上げた者達でなければ、

そのことを理解することはできないだろう。

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