第16話
伯父さん、急にごめん。
ちょっと手を貸してくれないかな?
今、友達が大変な事態に陥ってて。
俺がしてやれることなんて限られるけど。
出来ることは全部したいんだ。
だから、お願いします。
伯父さんの知恵と
◆ ◆ ◆
その日は食べ物を殆ど受付けず、辛うじてゼリー状の栄養補給食を口にしただけだった。
眠りにつく度に魘されては起き、魘されては起きの繰り返しを側で見守るしか出来ないもどかしさ。
小生意気だが年相応に無邪気で明るくて優しいお前が、何故こんな目に合わねばならないのか。
嫌悪するなら関わらなければいい話だろう。
隣人を愛せと教育された者が、大多数との不一致を個性だとどうして許容出来ないんだ。
だが、俺にはそこまで言える資格がない。
俺も違う意味でお前を傷つけてきたから。
だから、お前の分だけ頂くことにしよう。
◆ ◆ ◆
二日目になると腹の虫が鳴き続け、口に運んだ物も少しずつ胃に貯まるようになった。
だが睡眠が足りず隈が酷い。
気休めだが手を繋ぎ寝かせてみる。
「眠ったら着替えに一度戻る、買い出しもしてくるからちょっと遅くなるが必ず帰る、いいか?」
「………わかった、気を付けて」
か細く呟く声が俺を気遣う。
「出た後で欲しいものがあったら連絡くれ」
こくんと頷くとすぅっと目を閉じる。
部屋を出て俺がやることはふたつ。
物的証拠の解析依頼がひとつ。
そして、もうひとつの為に大学へと向かう。
◆ ◆ ◆
「一発ヤらせろ」
講義室で
「何事だよ、暴力はいけねぇなぁ、留学生」
ニヤニヤした顔が苛立ちを煽るが必死に堪えて前方へ引き摺り出す。
「俺が何したってんだよ~、怖ぇよ~、誰か助けてくれ~」
教壇の上に手をつかせて腰パンのジーンズを一気に下ろしケツを出す。
「な、何すんだよ、変態がっ!」
逃げぬよう押さえ付け相手に判る言語で囁く。
「覚えておけ、お前に逃げ道はない」
そして大仰に続ける。
「もう限界なんだよ、お前の茶化し。
俺の顔を見る度に東洋人を馬鹿にした言動ばかりしやがって。お陰で日本では滅多に現れない俺好みのぽちゃ女子とのイチャ楽しい留学生活が無駄に終わるだろうが。
腹立たしくてたまらねぇが、蹴り一発で許してやるよ。世界の10本指に入った貴重な俺様の蹴りだ、有り難く思え」
想定外の流暢な言語に一同唖然とする。
「……な、何が世界だ、フカしやがって!」
「歯、くいしばれ、クズ野郎」
ドスを聞かせた声にビビり始めた汚いケツに照準を合わせる。
「そこまでにしておけ、それ以上は無意味だ、ここは俺が預かる、受講しないヤツは帰れ」
思わぬ邪魔を入れたのは、かつての学生大会で常連の男だった。
そして耳元で小さく呟く。
「腐り野郎の為に二度とその脚を汚すな」
そんな事はどうでも良い。
俺だけが関わるように一発だけでも仕返しがしたかったのに、結局それは叶わなかった。
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