第8話

〈バイト先で余り物ゲットした、要る?〉

〈食う!米有るからウチ来い〉

〈マジで、米、久し振り~!! 〉

〈炊いて待ってる、急げよ〉

最近、互いの部屋に往き来するようになっていた。

色めいた話は決してない。


いつ来てもさっぱりとした部屋。

必要なもの以外が全然増えない。

俺もバイトしたい、とデカい図体をしょんぼりさせてテーブルに突っ伏す。

いや、学業に励めよ。

「俺と日本語で話してる時点で無理だな」

くうぅぅ、とお預け中の腹の虫とともに部屋の主が唸る。

「力は有り余ってるから荷運びなら出来るのに……」

ピピピ、アラームが鳴る。

「蒸らし終了、食おう!」


蓋を開ければふわりと甘い匂い。

余り物を広げて懐かしく手を合わせる。

「「いただきますー!!」」

…………んんん、芯が、口の中に残る。

「水分足りなかったんかなー、悪いな」

「まぁ、食えなくもないし、スープにぶちこめば良い感じにふやけんじゃね?」

気にすんな。

「そう言われると余計気にする質なんだよ、俺!」

ははは、外見に似合わないことを言うな。

笑みを残しながらふと思う。

…………心通わす友ってこんな感じかな。


この日は大学に近いコイツの部屋に泊まる。

暗がりの中、ベッドとソファに寝転がりぼそぼそと会話が続く。

互いの顔が見えないのを良いことに聞いてみる。

「お前さぁ、何で俺と居ようと思ったの、コッチ側でもないのに」

「意志疎通の安心感と……保身、自衛の為、悪いな」

何故、謝るのか。


「自衛はその身体があれば十分じゃね?」

「そうでもないんだよ」

ふぅぅん、良く判んないな。


もうひとつ突っ込んで聞いてみる。

「普通っぽく振る舞ってるけど、気になんないの、俺のこと」

「んー、別に、っていうのは良くない答えなんかな」

「惚れたっつったらどうするよ?」

「…………すまん、それには応えられない。でも今まで通りでいて欲しい。都合よすぎだな」

「…………」

ん、ちょっと待て?

「告った訳じゃないのに何で振られるていなんだ俺、例えだよ、筋肉嫌いだって言ったろ」

「あはは、確かに」


不思議な空間がここにある。

これ迄の苛立ちが嘘のように掻き消える。

後ろめたさもストレスも要らない。

何も知らなかった幼い頃みたいに自然で居られる。


ここに来てこういう出会いがあるとは思わなくて、ちょっと嬉しさが込み上げてくる。

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