4 納豆


 疲れた。日雇い労働は楽じゃねえなあ。

 飯を作る気力が無い。無いよ阿呆。

 だからつって外食なんてできるか、明日の昼飯さえやっとの日々だ。

 こんな暮らしをすることになるなんて、小学生の俺は想像したことがあったか。想像したことが無いのなら甘かった。もっと頑張れよ小学生を。想像したことがあるのならもっと頑張れよ小学生を。どちらにしても想像云々ではなく、俺は今、日雇い労働者だった、ああそう、そうなの。

 今晩の飯は、3パック85円の納豆で十分だ。それを1パックで十分だ。昨日スーパーで買って置いて良かった。米だけ炊けばいい。それでいい。


 米が炊ける間、敷きっぱなしの布団に寝転び溜め息をひとつ。今日一日を軽率に振り返ってみた。まあまず愚痴がこぼれる。


 なんじゃ、あの馬鹿は、あの豚は、ちゃんと作業を行え。

 それに加えて能書きばかりうるさい蛸じゃ。などと呟く。


 仕方のないことだ、まるで動物園のように騒がしい職場である。だがしかし、俺はそこの飼育員でもなんでもない。まったく参る。


 見方を変えよう。偏見はいけない。


「ああ。そうか。すべてを納豆とかき混ぜて食べちゃおう、豚肉は美味しい。馬や鹿なんて滅多に頂けない。嬉しいなあ。ああ、ああ、蛸は待て、米に混ぜれば蛸飯じゃないか。嬉しいなあ」


 間違いなく、喜ばしい食事になった俺は会社に、ありがとうとまたひとり呟いて、美味しい納豆ご飯をただ黙々と食べた。同じ動物のひとつとして。

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