2 焼き蕎麦

 頭に蕎麦が浮かんで消えない、そんな夜が時々は誰にもあります。そしてその蕎麦が段々と頭で増えていき、大きくなり、どんどん広がることもあるようです。

 それが止まないものだから仕方もない、外へと出す以外なく今も少しずつ小出しに蕎麦をするすると垂らしている土曜の夜になっています。

 何故蕎麦が頭に増えるのか。頭に蕎麦がぼんやりと揺らぐくらいなら、日常茶飯事だから驚きもしませんが、増えるとなるとこれはいよいよただ事ではありません。

 日頃の受け止めるざるが足りなくなってしまった、この事が大きな要因のようで、ではざるを増やせば良いのかと考える方々も少なからずいるようですがそれでは外へ出る蕎麦が蕎麦でなくなってしまう、まるでそれと同じような事が起こっては後戻りもできません。

 結局は蕎麦らしいものが途切れてしまう可能性が発生してしまいます。

 人は蕎麦を外へ出す事も一時的に必要で、ある気持ちを境に蕎麦を焼く事も大切な作業になります。米や、パンとは違った面で、増えていく蕎麦と言うものは些細なきっかけで焼く事を欠かせなくなっていく、そんな自分と、蕎麦をまざまざと思い知らされた夜でした。

 友人にも問うてみたところ、

「そんなものは知らない」

 それの繰り返しでした。


 蕎麦が外へ出る。焼く。それを知らない。


 そんな訳がない。


 確信して走りました。息を切らし、靴紐はほどけて尚、走りました。蕎麦屋の前に、立っていたその身体は蕎麦をたくさん出していました。


「蕎麦屋さん」

「何かね」

「焼き蕎麦ひとつ」

「へい、焼き蕎麦ね。座って待っててね」


 不思議と気持ちはすっきりしていました。

 友人、土曜の夜、ざる、色んなものが胸をよぎりました。


 出す蕎麦を見つめながら、蕎麦屋が出した焼き蕎麦を食べました。


 あながち間違いじゃない、そんなまた、土曜の夜でした。

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