販売中止中
煮沢 十
1 販売中止
俺は働いた。眠った。
次の日、暑さで目が覚めた。
ぬっとした空気とどんより垂れ込めた雨雲が顔の脂汗を増量させた。
土曜の昼前だった。
床に転がったぬいぐるみ。
販売中止になった猫のぬいぐるみ。
販売中止になった原因はなんだろう。
テーブルの上に置くちり紙で脂汗を拭いた。考えれば、「生活は否定することから始まる」と聞いた言葉は間違ってはなくもない。
俺は目覚めて、小便をするためにこの布団から出なくてはならない。出たくない。けれど出ずにも居られない。
仕事をしたくない、けれど金のため、それらと同じこと。
わかっているつもりが、毎日のように眠り過ぎる、その過多な睡眠もまた一緒だ、と頭では自分で言っている、この瞬間。
小便をするために布団を、出たほうが、良い。
この言い回しのほうがしっくり来る。「布団汚れるけどあんたどうする?」と言ったかけ引きでもあるから。
布団を出て小便をした。そしてついでに顔を洗い、歯も磨いた。
ぼんやりと、昨日職場で聞いた話しを浮かべて、つい考え込んでしまった。
「誰という訳でもなく、突然潰される時が来ることもあるだろう」
と言うことは俺は、販売を潰されたぬいぐるみを部屋に置いて朗々と生きて今、米を炊いていることになる。
なんとも憂いを帯びた状況である。
労働して、寝て起きて、販売中止のぬいぐるみを思う。
そうして小便などをしてから米を炊く。
しかしこの嫌味な休日はゆっくりとしか、進まなかった。
明日も生き抜こう。そう思って両腕を掲げ拳を握り、炊いた米に納豆を掛けて食った。
そしてまた眠るために俺は布団に入った。
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