嘘だらけ
屋上から戻った僕は教室の片隅で、ざわざわと騒がしい教室の中を、1人でぼけぇっと眺めている。
誰も僕の事を気にしてくれていない。
少し前までは普通に話しをしていた連中も、今では僕の事を腫れ物に触るように気を使ってあまり話しかけて来なくなった。
でも、僕はそれでよかった。教室の中でバカ騒ぎをする気力もなく、このまま学校もサボってしまおうか思う。
しかし、そんな勇気もなく、ただぼけぇっとここにいるしかないのだ。
「私と友達になりましょう」
澤部はこんな僕にそう言っていた。
特に一緒に遊んだ記憶もなく、地味で存在感のない女の子だった澤部が、なんで僕にそんなことを言ったのか。
「似たもの同士」
似ているのか?正直なところ、澤部のことを知らなすぎて全くわからない。でも、自分から彼女のことを知ろうとも思わない。
ふと昨日、掛川から手紙が届いていたことを思い出した。
返事を書かなきゃな……
『寒いけど僕は元気だよ、掛川は風邪を引いたりしてない?』
『来年こそは全国大会を目指して、篤や勇次たちと練習を頑張っているよ』
特に病気はしてないけど元気があるわけでもないし、最近はほとんど部活にも出ていない。
嘘だらけの手紙。
本当のことなんて書けやしない。
もう、どうでも良いやと時々思う。
なんかめんどくさいなぁ……
僕は机にうつ伏せとなり、喧しい教室の中で瞼を閉じ眠ることにした。
次の日、書き終えた手紙をポストへ投函し、僕は重い足をずるずると引き摺りながら学校へと向かう。
はぁっと吐く息が白く辺りに霧散し消えて無くなる。
こんな風に家族も消えて無くなっちゃうんだろう。
父さん、母さん、姉ちゃん。
最近離婚した両親は、父さんは僕を、母さんは姉ちゃんを引き取った。
父さんは朝早くに仕事に行き、夜は遅く帰ってくる。顔を合わせない日の方が多い。だから時々近くに住んでいる祖母が様子を見に来ることがある。
僕はコンビニによると、朝食にいつもの飲むヨーグルトとカレーパンとコロッケパンを購入し、店の裏側駐車場で食べ始めた。
「おはよう」
ふと顔を上げると澤部が僕の方を見下ろすような格好で立っている。
「……おはよう」
朝食時には誰とも会いたくないから、わざわざ裏側駐車場で食べているのに、よりによって澤部に会うとは。
「いつもここで食べてるね」
彼女は僕が座っている駐車場輪止めの隣に座ると、鞄の中からペットボトルのジュースを取り出し一口飲んだ。
「私、学校の行き帰りに、ここの駐車場を横断してるから」
ちらりと横目で僕を見ると、ほわっと白い息を吐き出し、それを黙って見ている。そして、もう一度、僕の方へと視線を向け、
「声は掛けなかったんだけどね」
そう言い、マフラーに半分近く顔を埋め、肩を少し窄めながら、寒いねと呟いた。
彼女 ちい。 @koyomi-8574
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