屋上
「飛び降りるつもり?」
空はどんよりと曇っており、今にも雪が降り出しそうな空は低く、身を切るような風が隠れる場所のない校舎屋上を駆け抜けて行く。
そんな誰もいない寒々とした校舎屋上の柵に掴まり1人でぼやっと風景を眺めていると、突然、背後から声をかけられた。
誰も来ないと気を抜いていたこともあり、びっくりした僕が声を掛けられた方へ顔を向けると、そこには1人の女子生徒が立っている。
「3組の
その子は僕の方へと近づいてくると、横に来て柵に掴まり、さっきまでの僕みたいに風景を眺め始めた。
しばらく黙って風景を眺めていたが、ちらりとこちらに顔を向けると、
「6年生の時に同じクラスだった
自分の名前を名乗った彼女はじっと僕を見つめている。
でも、小学生の時は眼鏡を掛けて、何かもっさりとしたようなイメージしか残っていない。でも、今の澤部は眼鏡を掛けておらず、長かった髪は肩につくかつかないかくらいになっている。
少し戸惑っている僕を見ていた澤部がふふっと笑うと、また風景の方へと向き直して僕にはっきりと言った。
「私とお友達になりましょう」
「なんで?」
あまりよく憶えていない女子からお友達になりましょうと言われ、はいそうですかと即答するほど僕は心にゆとりなんてない。どちらかと言うと、澤部にも早くどこかへ行って欲しい。
「私は邪魔かしら」
まるで僕の心を見透かしたかのように、言葉を投げかけてくる。そんな澤部から顔を背けると、彼女は僕の方を見向きもせずにまた口を開く。
「だって、稲川君と私は似たもの同士みたいだから」
防寒具を着ていても顔は冷たい風に吹き晒されており、頬がぱりぱりと乾いているのが分かる。
彼女の頬も寒さのせいか赤くなっており、時折吹いてくる強い北風に目を細めている。
「僕と君が似たもの同士だって?」
その言葉にやっと僕の方へと顔を向けた彼女の表情は少しだけ寂しそうに見えた。しかし、それも一瞬で僕は自分が見間違いをしていたんじゃないかと思ってしまうくらいだった。
「そうよ、似ているわ。」
「1人になりたがるところ」
「寂しそうにしているところ」
「誰かに心の中の全てを吐き出したいと思っているところ……」
僕の胸の辺りをちょんっと人差し指で押した彼女は、また風景の方へと視線を戻した。
「稲川君が良ければ、私が話しを聞くわ」
風に靡く髪を気にせず、彼女は僕に話しをしていると言うよりも、何か自分に言い聞かせているような感じがした。
「分からないよ」
絞り出すように僕がそう言うと、彼女はちらりと横目で僕を見て、そうかしらと小さな声でぽつりと呟いた。
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