第9話 再会
(篤side)
月曜日。
降水確率は六十%と朝の情報番組で言ってたけど、どんよりと曇った空は、今にも雨が降りそうだ。
「昨日さ、掛川から連絡あったんだけど」
通学途中、待ち合わせしている場所に桜が来て、お互いにおはようの挨拶を済ませてからの一言目だった。
「お前、掛川とやり取りしてたの?」
「してなかったよ」
桜は俺の質問に携帯のSNSのアプリを開きながら答える。
「昨日の夜、ほら、前に掛川と久しぶりにあったって子がいたじゃん。その子から掛川が私の連絡先教えて欲しいって私に伝えてって聞いたから、良いよって」
「そっか」
「でね、掛川がこっちに来るから、久しぶりに会いたいんだって。私と篤と、勇次の三人に」
「ふーん」
「なんか、どうでも良いって感じ?」
桜は、俺が素っ気ない返事をしているせいか、不満顔で少し睨んだように見ている。
「そうじゃないよ。あいつの名前を出さないってことは、ここにあいつがいないのを知ってたのか、それとも、引っ越してる間になんかあいつとなんかあって会いたくないんかなって思ってさ」
俺はどんよりとした空を、何となく見上げながら答えた。
桜も俺につられて、空へと視線を移し、ぎゅっと背伸びをしている。
「あー、雨降りそう。」
そして、俺の方へ向き直し、
「まぁ、それは掛川から直接聞けばいいんじゃない?まずは、掛川と会うか会わないかでしょ」
そう言うと、にかっと笑った。
「俺は会うのは賛成だよ。今週の土曜日の練習が午前中だけだから、午後からならどうかな」
「了解。あとは勇次の予定を聞いて、掛川に連絡するよ」
そう言うと、桜は軽やかに鼻唄を歌い出した。耳にしたことはあるけど、なんて言う曲名は思い出せない。
僕は、桜の鼻唄を邪魔したくないと言うわけではなかったけど、特に話すことがなかったこともあり、無言のまま、並んで歩いた。
少し歩くと、開店前のスーパーの駐車場で勇次るがこちらに向かって大きく手を振っている。
その仕草のおかげで、勇次の185cmの長身が、さらに大きく見える。
「おはよう、ベストカップル」
勇次は、俺と桜が並んで歩いていた姿をみて、にやにやと変な笑みを浮かべている。
「は?あんた、何言ってんの?朝から、馬鹿じゃないの?」
「痛っ」
桜が、こつんと勇次の脛を軽く蹴った。それに対し、勇次は大袈裟なジェスチャーで応えている。
そんな二人のやり取りを見て笑っていた俺に、桜は軽く睨んだ振りをして、また、にかっと笑った。
待ち合わせのスーパーの駐車場から、学校まで徒歩十分。
雨が降りそうだけど、特に急ぐこともなく、のんびりと学校に向かった。
その間に、桜が、掛川から連絡があり、俺ら三人に会いたいと言っていたことを、勇次へ伝えた。
「ごめん!!土曜日の練習が終わったら、彼女の試合の応援に行くって約束してるんだよ……」
勇次は、本当に申し訳なさそうな顔をして、両手を合わせ、何度も頭を下げている。
勇次には一学年上の彼女がいる。彼女はバレー部のレギュラーになれたばかりで、そのレギュラー初選抜の試合を応援に行く予定があるらしい。
「そっかぁ……会う日を変更する?」
「いや、あんまり伸ばすのも何だし、うちらも、そろそろ地区大会が始まるし、土日の休みも無くなると思うから、二人で会ってこいよ」
それでも桜は、やっぱり三人で会うということにこだわりがあるのか、納得いかない様子である。
「掛川ってO市だろ。今回は三人で会えないけど、次は三人で会いに行けばいいじゃん。O市なら、電車に乗ってびゅーんって最終駅までひとっ飛びだろ。それに、あいつもO市にいるんだろうし」
勇次はそう言うと、俺のほうへちらりと視線を向けた。勇次の言葉に、桜はうーんと唸っていたが、分かったと一言いって、携帯を扱いだした。
早速、掛川に連絡をしているのだろう。
俺は、勇次にあいつに会いに行くってを決めたことを伝えている。
その事を含めて、勇次は桜にそう言う提案をしたんだろう。
一人で会いに行くつもりだったんだけど、俺の中にあるあいつに会うことに対しての不安などを汲み取って、三人で行こうと言ってくれたと思う。
俺だけではなく、勇次にとっても、桜にとっても、今でも、あいつはかけがえのない友達なんだから。
三人に掛川が加わってくれたら、あいつの頑なに他人を拒むようになった心を癒せるんじゃないか、以前のあいつに戻らなくても、前に進めるんじゃないかと思う。
昼休みに、桜に掛川から返事が来たことをきいた。
勇次が来れないことを残念そうにしていたようだけど、俺たち二人に会えることをとても楽しみにしているみたいだ。
今週の土曜日、午後二時に駅の東口で待ち合わせ。
それからあっという間に、土曜日になった。
昨日まで、しとしとと雨が降っていたけど、今日は、雲の隙間から、少し日差しが見える。
部活が終わり俺と桜は、彼女の応援に行く勇次と正門で別れ帰り道を、いつもよりテンションの上がった桜は、小学生の頃の掛川の話しをしている。
桜と掛川は、女子の中じゃ一番の仲良しだったから。
桜の足取りも軽く、掛川と会うことが本当に楽しみにしている様子が伝わってくる。
しばらく歩くと、通学時に桜と待ち合わせしている三叉路に着くと、じゃあ、またねとお互いに手を上げ、一旦別れた。
指定の時間に自転車で桜の家まで迎えに行くと、桜がばたばたと玄関から顔を出した。
「もう少し、待ってて」
そう言うと、慌てて家の中に戻り、十分後くらいに出てきた。
出てきた桜は、いつもよりオシャレだった。
「……お前、久しぶりに掛川に会うからって、気合い入れ過ぎじゃね?」
「……良いじゃん、別に」
桜は照れながら俯き小さな声で答えた。そして、照れ隠しなんだろうけど、ぱっと自転車の荷台に飛び乗り、
「出発!!」
と、両手を上げ大きな声でいった。
駅までは、自転車で十分。
待ち合わせの時間より早くついた。
駅の東口は土曜日だからか、いつもより、私服の若者が多くいる。
そんな中、一人の女の子が目に付いた。
真っ黒で真っ直ぐ綺麗な髪の毛をした、少しつり目の女の子。
その子は自転車を押して、桜と並んで歩いている俺らに気づき、手を振ってきた。
桜もそれに気づき、掛川に走りよって、お互いに手を握りあっている。
可愛くて、少し大人びていた女の子は、綺麗になって、さらに大人っぽくなっていた。
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