第20話 今日も想像劇場
一人っ子にもよるが、小さな頃から遊び相手がいないため想像力は体よりたくましく育った。
以前も書いたが幼稚園でサンタクロースは信じないくせに、お母さんが集まる集会所は魔女がいるという友人の話を信じる子供だ。
おへそからは食したゴマが排出されるという母親の嘘を信じて筋肉のないおへそを洗いすぎてお腹を真っ赤にして、母親を驚かせ、母親が嘘だと言い驚いた幼児期。
女子、否、性別がいちよう女性としては忘れたい。
しかし、一人っ子で友人以外とは大人にかこまれ独り遊びをし、時間のほとんどをぼんやり過ごすのが好きだった私は想像するのが好きだった。
幼いサンタクロースを信じていない私に衝撃を受けた母親は、親として焦り、郵便局で数千円払うとクリスマスに北欧のサンタクロースから手紙がくるサービスを利用する。
「サンタさんからお手紙がきたよ♪」と現実では毎日イギリス寮長なみに厳しい母親が年末に、怪しい宗教のような明るさで手紙をくれるので、本が好きだった私はしぶしぶ手紙を寒い年末に読んだ。
もうこの頃から独身の道を突っ走り始めてるではないか。
「やあ!◯◯ちゃん、サンタクロースだよ!僕は北欧の◯◯という国でトナカイのジョナサン(そんな名前だった気がする)と十匹のトナカイ、小人達、妖精(凄い美人の名前)と暮らしているんだ!」
と、突然個人情報を流出し、住んでいる住人達の話を会ったこともない子供の私に説明しだす。
小学生低学年だった私は、サンタさん凄い!なんて可愛い表現などせず、ふーん、結構、サンタクロースってお金持ちでリア充なんだなと黙々と、やたら明るいサンタからの手紙を読み進めた。
ちなみに 郵便局のサービスとあって大量生産のため印刷の手紙。
「◯◯ちゃんのもとにもクリスマスにそりにプレゼントをつんでいくよ!楽しみかな?」
サンタは、突然質問調になるが、返事の書けない私はサンタを信じさせようと期待に膨らむ母親のキラキラした重さに耐えきれず
「サンタさん、来るって」
と一言話すと、母親は良かったねと言って夕食を作り出した。
どんだけ冷めきった子供だ。郵便局も大量生産のしがいがないだろう。
しかし、私の心が惹かれたのは、サンタの金持ち生活でも空とぶトナカイのジョナサンでもなく、サンタの隣に暮らすやたら美人な妖精の自慢話だ。
「クリスタル(妖精の名前は覚えてない)とは毎日、私の家に来てお話をするんだ!」 サンタは突然、妖精を恋人呼ばわりし出し、子供のくせにこまっしゃくれていた私は、何と!サンタって美人のそれも妖精の恋人いて、毎日家に来るのっ?
と、急に大量(以下略)の手紙に食い付きだした。
しかし、「では!楽しいクリスマスを!」と数千円の手紙の限界はきて突然サンタの話が終わる。
後は想像するしかない。なぜだろう、普通の子供なら無邪気に終わる手紙を持ったまま、私は行った事もない北欧で、サンタは小人にプレゼントを袋詰めさせる重労働をさせ、自分は暖炉の前で美人の妖精のクリスタルと談笑するのか。外で暮らすトナカイのジョナサン達は、さぞや寒かろう。
そんな事を想像しているとも知らない母親が手紙どうだったと聞いてきた。
「楽しそうに暮らしてるみたい(大人の意味で)」と答えたら、母親が嬉しそうだっので一人っ子の義務は終えた。
サンタの手紙を握りしめ、雪の降らない東京の空をながめた小学生がいた事を誰も知らない。
私は、そんな感じで(?)今日も誰かの生活を勝手に想像して劇場と化して生きている。
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