第18話 2020年3月2日(月)
朝一番に樹はスマホをチェックした。予想通りまだ何も連絡は入っていなかった。試験結果は八時半頃に判明する。九時に日向から予想通りのメッセージが来た。
『ラッキー』
『おめでとう。本当は予想通りだったんだろ?』
『ありがとう。予定通りかな』
素でこんな事を言っても日向が言うと何となく許されてしまう。
『山田のケア宜しくな』
今頃は甘くない現実に打ちのめされている事だろう。しばらくすると日向から写真が送られてきた。張り出された合格番号の一部らしい。下半分には誰かの後頭部が幾つも写っていた。
『0237って確かにあるよね?』
『あるよ』
続いて受験票の写真が送られて来た。受験番号0237だった。見間違いではない事を誰かに確認したい気持ちは良く分かった。
『間違いない。おめでとう』
返事を送信した直後に樹は気付いた。受験票には名前が記載されている。0237は日向の番号ではなかった。すかさず樹は送信した。
『フォトショじゃないよな?』
『全部リアル』
『マジか……あいつ伝説作りやがった。今一緒?』
『一緒だけど激泣中。かなり恥ずかしい』
『今日くらいは許してやれよ』
『俺に抱きついて泣くのは勘弁して欲しい。周囲の視線が痛い』
『貴重な映像だ、動画撮ってもらえ』
グッドニュースを伝えるのは気分が良い。面会時間が待ち遠しかった。
「香澄ちゃん、すごいね」
「今年のMVPは日向が鉄板だったのに、最後に脳筋が全部持って行きやがった。今日は学校の色んなグループでバズってる。あいつは顔広いし、部活の下級生には信者が多いから今日は祭りだな」
さくらに今日の報告をしていると葉月が加わってきた。
「わずか一年の勉強で名門校に合格するスポーツ万能女子なんて完璧じゃない。ウソみたいなカッコイイ系じゃん」
「おいおい、現物を知ってるだろ? しかもコレ」
今朝、あの後日向から動画が送られて来た。樹は冗談で言ったつもりだったが、日向は本当に実行したのだ。その動画をさくらと葉月に見せた。
「へー」
「うわぁー」
一分程の動画は何のアングル変化もない代物だった。日向にしがみついた香澄が胸に顔を埋めて延々と泣いているだけのつまらない映像、動画サイトにアップしても再生数は二桁が良いところだろう。
「恥っずいだろ? あいつ二十分間この状態だったんだぜ」
葉月が呆れた顔で言う。
「何言ってんの? この世で一番美しい映像じゃない」
「この羞恥プレイ動画が?」
さくらは葉月と同意見のようだ。
「香澄ちゃん、良かったね。こっちまで幸せな気分になっちゃう」
「凄いクライマックス映像だね。樹、それ欲しい。ちょうだい」
「はぁ? 拡散したなんて知れたら殺されるわ」
「いいじゃん、そんな貴重な映像めったに手に入らないよ」
「恥ずかしくて入学式行けなくなりそうな黒動画だぞ。確かにまるで届いてなかったのに一年で受かったのは凄いと思うけど、泣き過ぎだろ?」
さくらと顔を見合わせると葉月が言った。
「君は馬鹿ですか〜〜? 友達なんでしょ。何で分からないかな?」
「何が?」
「どん底までダメだ、こいつ」
樹はムッと来たが、前回馬鹿と言われた時は反論の余地が無かった事は覚えていた。
「分かってますか〜〜? 香澄ちゃんは偏差値なんかどうでも良かったんだよ」
「はぁ? どうでも良くないだろ。十以上足りてなかったんだぞ」
「だからそこはポイントじゃないんだって。いい加減分かって」
さくらがフォローする。
「樹は昔からの知り合いでしょ? 昔の印象が強いからそう見えちゃうんだよ。私達は今の香澄ちゃんしか知らないから」
「あいつがどう見えてるんだよ? 二年の時と今とで何も変わってないように思えるけど?」
「昔からあんなに分かりやすい子だったの?」
「見ての通りの直球の脳筋系だよ」
「可愛い過ぎる。ギュってしたーーい」
「誰の話?」
「この話の流れでは一人しかいないでしょ」
「はぁ……何を言おうとしているのか分かって来たけど、それは無いと思うぞ」
「何を根拠に?」
「そんなそぶり全く無かったぞ。普通はそれらしい仕草とか、雰囲気とか色々あるだろ?」
「君が言う?」
葉月の一刺しに何も言えなかった。
「全身から漂ってたじゃない。気付かなかったの?」
さくらは気付いていたらしい。
「全く」
樹は認めた。
「日向君と話す時は明るい顔に変わってたじゃない。日向君は気付いてないのかしら?」
「気付いてないと思うな」
「さくらちゃん、そういうお馬鹿はどうしたらいいんだろ?」
「成就して欲しいよね」
「おい、変な事すんなよ。日向に言うとか」
「そんな事しないよ。私達は部外者だから何もできない」
「節度があって安心したよ」
「君がやるんだよ」
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