第14話

モニターの中を不規則に動く主人公。


ロバートは、その光景に声を失った。


なんとなくニーナのセリフを打ち込み、今までいくらプログラムを書き換えても全く反応しなかったはずがロバートが打ち込んだニーナのセリフがゲームに反映され、その後、主人公アルカがまるで呪いでも解かれたかのように突然動き出した。


ゲームのコントロールキーを操作しているわけでも、アルカの動作に影響するプログラムを打ったわけでもない。


ゲームはスタンドアローンである為、誰かが遠隔でアルカを操作することはできない。


ウィルスによるものでもない。


散々感染していないか調べ、ロバートは感染していないと結論づけた。


これはSNSミクスのウィルス感染を疑ったユーザー達も徹底的に調べウィルス感染の可能性は限りなくゼロに近いと結論づけている。


鳥肌が立った。


ロバートは不可解な現象に対しての恐怖と自分の理解することが全くできない未知との遭遇による歓喜で支配され頭の中は、ぐちゃぐちゃになった。


途端に苦しくなって息をゼイゼイと吐いた。ロバートは呼吸をするのを忘れるぐらい驚嘆していた。


呼吸を落ち着かせると少し冷静になれた。


横のベットで鼾をかくダニエルを起こした。


「う~ん。うん?もう朝か。おはよう、ロバート。って、どうしたんだい!?随分疲れた顔をしているじゃないか」


「おはよう、ダニエル。徹夜明けだからね。それよりもこれを見てほしいんだ」


「んんっ...!?アルカが動いている!」


ダニエルはロバートに促され机の上のノートPCのモニターを覗き驚いた。


「そうなんだ。動いている。それもコントロールキーで操作しているわけじゃない。勝手に動いているんだ」


「一体、どういうことなんだい!?」


「わからない。僕にも分からないよ、ダニエル。ただ一つ言えることは僕が打ち込んだプログラムでニーナのセリフが表示されたんだ。そこからアルカは動きだした。ダニエル、NS6でスクウェアクエストを起動してくれないかい?」


「わかった!君の言う通りに今すぐNS6を立ち上げるよ」


ベットから飛び出したダニエルは急いで一階のロビーに向かい、NS6を立ち上げた。


ロビーに置いてあるダニエルのスマートフォンに着信が入る。


スマートフォンにはロバートの名前が表示されていた。


『やぁ、ロバート。今NS6を起動したよ』


『ありがとう、ロバート。そのままセルフォンの通話を繋げたままスクェアクエストを起動してみて』


『ちょっと待ってて...よし、起動させた。...そんな!アルカが動いている!』


『フリーズの時と同じように端末は関係なく同じ現象が起こっている。ダニエル、アルカは今どんな感じで動いているかい?』


『今、王の正面に2コマ分空けた所にいて右に一コマ進んだ。左に2コマ、下に4コマ、上に1コマ。ビデオコールに切り替えるよ』


ダニエルはスマートフォンをテレビ電話に切り替えカメラをアルカが動き回っているNS6のクレーストモニターに向けた。


ロバートはダニエルが送る映像が映し出されているスマートフォンとアルカが動き回るノートPCのモニターに画面を重ね見比べた。いま起動したNS6でのアルカもノートPCでのアルカも全く同じ動きをしている。


規則性は感じられず自由に動いているように見えているが二つの画面に映し出されたアルカは全く同じように行動している。


『ありがとうダニエル。あとはNS6を再起動して同じようにアルカが動いているか確認してみて』


『了解だ、ロバート!再起動するよ』


一旦スマートフォンの通話を切り、ロバートはノートPCを強制終了させすぐに再起動させてSNSミクスのアプリケーションを立ち上げた。


まだ朝の早い時間の為ログインしているユーザーは少しのようだったが、スクウェアクエストについての報告が数件あがっている。


どれも主人公のアルカが勝手に動き出していることについてだ。


ミクスはSNSの中でもシェアは、ほどほどだがユーザーは全世界にいる。


世界に散らばったユーザー達からほぼ同じタイミングでほぼ同じ内容の報告があがる不可思議さが、自分の理解できない何かが間違いなく起こっていることを裏付けた。


唯一ロバートが分かっていることは自分がニーナのセリフを表示させその影響でアルカが動き出した可能性があること。


か細く不確かなその要素が、この謎の解までの道筋を指し示す、ロバートにとって唯一のヒントだった。

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