第13話

ロバートは一心不乱にプログラムの羅列と向かいあっていた。


突然起こったスクウェアクエストのフリーズ。

何度再起動しようとBGMもなく同じシーンがモニターに映し出されるだけ。


SNSミクス上では同じように、スマートフォン、PC、各種テレビゲームハード機で同様のフリーズがほぼ同時期に起こっている報告がかなりの数のユーザーから挙がっていた。


まるでウィルス感染の症状の様だがウィルスの痕跡は見当たらずウィルスのトリガーらしき起因も見つからない。


プログラムには原因となった何かの存在の気配が全く感じられない。



横にはベッドの上でダニエルがいびきをかきながら寝ていた。


気付けば窓のカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。


ロバートは天井を仰いで、凝った目を瞑り指で軽く揉んだ。


不思議と眠気は起こらない。


混乱した頭の中には謎を解かないといけないと言う理由のない義務感と今の状況を楽しいと思う自分がいて覚醒していた。


それにしても、分からない。


何より謎なのは前回のバグの際も今回のフリーズも、プログラムの書き換えによるソフトの改造データを作成しプレイしても書き換えたプログラムが働かない事だった。


プログラムをいくら書き換えてもバグのみならずゲームの内容に一切干渉できない。


スクウェアクエストの最初の配信時、改造を行い主人公の初期レベルを最高値にしてプレイするゲーム動画をミクスで配信しているユーザーがいた。


その他、改造データでプレイするユーザーは数名いた。


しかしバグ発生後はプログラムの書き換えが反映されないとの報告があった。


ロバートはプログラムをいじる事に興味はあるもののそういった改造データのプレイは製作者に対しての冒涜だと考えていたが、最初のバグの原因を特定するために改造を行ってプログラムの検証を行おうとした。


報告にあった通り改造したはずのプログラムなのにオリジナルのプログラムと全く変わらない働きをしていた。


今回のフリーズも同様でプログラムを改造しそのデータでゲームを開始するがやはり映されるのは王とアルカとニーナ姫の静止画。


書き換えたのに書き換えが反映されていない不思議な現象に更に混乱していた。



行き詰ったロバートは一息つこうと椅子から立ち上がりカーテンを開いて窓を開けた。


ひんやりとした風が窓の外から入り込み、朝日が部屋全体を照らした。


ロバートは空気を深く吸いゆっくりと吐いた。


椅子に座り、机の上、ノートPCのモニターに映るプログラム言語の羅列とカーソルの点滅をぼーっと眺めながらも頭の中は空っぽにした。


ただただ何も考えずカーソルの点滅をしばらく見つめた。


なんとなくだが違和感を感じた。言葉にできない、理屈ではない、か細くうっすらとした何かが脳裏ををよぎった。


おもむろにキーボードを打ち込む。


フリーズした静止画の進行までのプログラムを削除しニーナ姫のセリフとして言葉を入れる。



【君は誰なんだい?】



たったそれだけのコードを実行した。


手持ち無沙汰だったからと言われればそうかもしれないがロバート自身も何気ない行動だった。


ゲームが起動する。


そしてすぐに王と主人公アルカ、ニーナ姫が初めて邂逅する最初のシーンが静止画として映し出される。音は何もない。


「そりゃそうだ。何かが起こるわけな...えっ?」


微動だにしなかった静止画にキャラクターのコメントウィンドウが表示された。


そして一文字ずつ、しかし規則正しい間隔で文字が表示され文章となった。



ニーナ『君は誰なんだい?』



ロバートは目を見開きモニターを眺め続けた。


数秒後、そして主人公アルカが動き出した。


ゆっくりと、一コマ一コマ動き出した。


不規則に動き回っている。


操作は何もしていない。


モニターの先にある、ゲームの中で、主人公がまるで意思があるかのように動きだしていた。




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