第12話
やぁ、RB。今日はどんな話を私たちはするかい?
やぁYAHVEH。タキオン粒子の流束を制御するNNCプログラムの構成についてはどうだろう?
あれ?NNCについてはまだ話していなかったかな。それは失念していたよ。現在の文明社会においてとても重要な役割を担っているからね。それじゃあまずは...。
ロバートはSNSミクスを介し顔も知らない長年の友人と語り合っていた。
語り合う内容はゲームについての話をする日もあればアニメや漫画の話をしたりする日、社会情勢から他愛もない世間話をする日もある。
この日のように議題に沿って語り合う日もある。
語り合うといってもことプログラムについての話題ではYAHVEHがその議題についての見解を述べ、ロバートが質問をするという形式になることが常だった。
YAHVEHの知識量は膨大で、現実世界の友人たちや大学の教授たち、SNS上でのユーザー達などと比べても他を圧倒しているとロバートは感じておりそんな友人に尊敬の念を抱いていた。
自然とロバートは友人からの教示を欲し聞き手に回ることが多くなり気が付けばお互い今のような形式となることが自然とできあがっていた。
気が付けば深夜を迎える頃まで語り合いは続いた。
ところでRB。先日配布されたスクウェアクエストの修正版はプレイしたかい?
やってみたよYAHVEH。ミクスで報告が上がっている通り例のバグは消えていたけれど他のバグも併せて消されていたね。
そうだね。消されていたんだ。移植による相乗効果でバグが発生していることに開発元は原因を見出したんだろうね。全部のバグを修正したということは彼らはバグの原因が特定できていないということだろう。
僕も同じ感想だよ。僕は例のバグが日本人プログラマーから僕たちユーザーへの挑戦状だと勘違いしていたんだ。僕にとっては最高のプレゼントだったのだけど結果は意図されたものではなく彼らも原因はわからなかった。
プレゼント...。そうか。そうだね。RB、君はそのプレゼントを開けたんだ。だけど中身が入っていなかった。君はそのプレゼントの箱の中をよく観察した。しかしやっぱり何もない。何もなかったんだ。
YAHVEH?
RB、僕からもプレゼントを贈るよ。箱の中身は確かにあるんだ。僕にはそれが分かった。君にも見えるはずだよ。
それはどういう---
「ロバート!大変だ!アルカが動かなくなった!」
ノートPCのキーボードを叩いている途中で急に部屋のドアが開きダニエルが叫びながら入ってきた。
「どうしたんだいダニエル。それにアルカが動かなくなったって?」
「そうなんだ!あのアルカのセリフが変わっていたバグ。あれと同じタイミングで動かなくなってしまったんだ。しかも!しかもだよ!ゲーム機を再起動して始めからプレイしようとしてもオープニングもなく固まった画面からスタートしてしまうんだ!」
頭を抱え興奮したダニエルの言葉は聞き取りづらくまた理解できない内容だったためロバートは一瞬固まてしまった。
「とりあえず僕も見ていいかい? 」
「ああ、もちろんだ!」
ダニエルが部屋を出るのについていこうとした時ふと振り返りノートPCのモニターを見た。
YAHVEHの言葉とロバートが途中まで入力した言葉、カーソルの点滅。
先ほどまでログイン状態だったYAHVEHのログオフ状態の表示があった。
ダニエルとともに二階のロバートの部屋からゲーム機の置いてあるロビーへ向かった。
ロビーには壁に貼り付けてあるテレビ用のクレーストモニターと最新のゲーム機種NS6のハード機が置いてあった。
モニターにはスクウェアクエスト序盤の、初めて王と対面したシーンで固まっているのが見て取れた。ゲームのBGMも流れていない。
「ほら!固まっているだろう?」
ロバートはNS6のコントローラーを適当に操作したがモニターのキャラクターはピクリともせず、なるほど固まっている。
「再起動はしたんだよね?ダニエル」
「ああ、その通りさ。ハード機を再起動してソフトを開いたらこのシーンから始まったんだ。続きから始めるためのパスワード入力をしたわけでもないのに!一体どうなっているんだ?」
ロバートはコントローラーでNS6に搭載されているタスクマネージャーを起動させようとしたが全く反応がないためハード機本体のスタートパネルを数回タップし強制終了と再起動の操作を行った。
するとすぐに再起動が完了されモニターにはNS6のメインメニューが表示された。
ロバートはコントローラーを触りカーソルが動くことを確認すると一覧表示にあるスクウェアクエストを選択しソフトを起動させた。
通常であれば真っ暗な画面に株式会社キューブのロゴが数秒表示された後、3和音で組み合わされたBGMと共にドットでデザインされたスクウェアクエストのタイトル画面が表示され、そこからニューゲームもしく続きからスタートのどちらかを選択できるコマンドが表示される。
ゲーム進行を再開させる場合は続きからのコマンドを選択後、ゲーム終了前に取得した進捗情報の元となるパスワードを入力することによりゲーム途中からスタートできる仕組みとなっている。
ロバートがソフトを起動させるとすぐに先程のシーンが表示された。
主人公アルカが王と対面し、始めてセリフを言うシーン。
スクウェアクエスト修正前に起こった、セリフが変化するバグの発生タイミングと全く一緒だったがセリフが表示されることなく只々、城内のデザインの中にドットデザインの王と主人公アルカと姫ニーナがそこにいるだけの静止画がモニターに映し出されているのみだった。
「ロバート、これは一体どうなっているんだい!?」
「正直全然わからないよダニエル。僕は今とても混乱している。これも5週目で起こるようになったのかい?」
「いや、これは2週目だよ。前回のバグが本当に全部修正されたのか試しながらプレイしていたからずいぶん時間がかかってしまったんだ」
ロバートは何度も繰り返し再起動を行い試したが結果は全て同じだった。
「とりあえず僕のノートPCで同じ症状が出るか試してみるよ」
ロバートは自室に向かい、その後をダニエルが追った。
自室に戻り急いで椅子に腰掛けノートPCを見た。
モニターにはミクスのアプリケーションが開きっぱなしでYAHVEHとのやり取りがそのままになっていた。
YAHVEHのアカウントはログオフのままだ。
ミクスのアプリケーションを終了させスクウェアクエストを開く。
ダニエルは後ろからロバートの肩に両手を置き肩越しにモニターを一緒に覗きこんだ。
同じだ。
スクウェアクエストの開かれたノートPCのモニターには先程ロビーで起こった事と全く同じでゲームが開かれた瞬間、すぐに王と主人公アルカ、姫ニーナの姿が静止画として映り出された。
マウスを何度もクリックし、キーボードを無作為に連打してみたが微動だにしない。
「ロバート!僕たちは一体何を目撃しているんだい!?」
ロバートの肩を掴む手に力を込めながら叫ぶようにダニエルは言った。
ロバートは答えず、すぐにノートPCを再起動させ、スクウェアクエストのプログラムを表示させた。
無数に並ぶ記号の羅列をロバートは物凄い早さで目だけ動かし、脳をフル稼働させて確認していった。
なんだ?なんなんだ?何でこんな事が?ロジックボム?いや、そんな形跡見当たらない。何だ、何なんだこれは!?
混乱の中、ダニエルが言った「僕たちは」と言う言葉に脳が遅れて反応し、はっとしたロバートは再びミクスのアプリケーションを開いた。
「ロ、ロバート!?まさかこれは...」
「僕たちはどうやら何かとてつもない事を体験している...かも知れないよ、ダニエル」
ロバートとダニエルが覗き込むミクスの開かれたモニターには、数百ものスクウェアクエストのユーザーからロバートとダニエルが体験している症状と同じ内容が起こっているとの報告が溢れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます