第11話

株式会社キューブの一角にある会議室で会議が行われようとしていた。


会議室に集まったのは6名。


ソフトウェア開発部部長の神谷をはじめ広報部長の中野、広報部課長の藪内、営業部部長の田畑、総務部部長の柏木、そして専務取締役の横田の六名。


定例外である今会議は神谷の招集によりおこなわれる会議で議題は6カ月前に配信を開始したスクウェアクエストの不具合の対応についてだった。


ただ、会議と言っても決まった内容を報告するだけで、議題について討論する事のない形式的なものだが会社の慣例となっており馬鹿馬鹿しいと思いつつも皆、特に各部管理職は一物はあるもののその慣例に沿って会議を行っていた。



予定よりも数分早いが面子は揃っているため神谷より言葉が発せられた。


「皆さん、各部お忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます。会議開始の予定時間より若干早いですが始めさせて頂きたいと思います。よろしくお願い致します。事前にお伝えしております通り今議題は70周年記念イベントで配信いたしましたスクウェアクエストの不具合、その対処についてです。まず問題発覚の経緯と現在までの対応について、広報部薮内課長よりお願い致します。」


事前の打ち合わせ通り神谷は薮内を指名し、薮内は当たり障りなく経緯と現在までの対応について説明した。


続いて神谷より不具合の原因が不明であるため解決に時間が必要があるとのソフトウェア開発部の結論を述べ、同時に現在のユーザーへの対応として新たなプログラムで構成されるソフトを配信し直す事を提案した。


「あー、よろしいですか?神谷部長。新しいプログラム、ですか。具体的にはどの様に?」


嫌味な顔つきをにやつかせる広報部部長の中野から神谷へ質問が上がった。


性格は顔に出るというがまさに中野は顔つき通り嫌みな性格をしてる事は皆んなが知っていた。


「中野部長からの質問についてですがスクウェアクエストは元々中野会長がお持ちだったソフトデータをコピーしたものをそのまま対象の各ハードウェア用に移植したものです。新しいプログラムというのはオリジナルのソフトデータを使用せずソフトウェア開発部スタッフによりスクウェアクエストを現行のハードウェアに合わせてプログラムを一から作り直します。バグの原因は不明ですが移植によるプログラム言語の変更と元々あった数点のバグがなんらかの相乗作用で起こっているのではと我々は考えているためです」


「一からって...それはものすごく時間がかかるのではありませんか?それに人手もいるでしょう。ただでさえ貴方の部署は人手不足だと聞いてますがスタッフに残業を強いるのですか?人件費、かかりますよ?神谷部長はコスト管理やスケジュール管理は苦手ですかね?それに貴方がおっしゃる相乗作用が原因なら元々あったバグも排除するという事で?それは中野会長の当時のままでと言うコンセプトに反するのでは?」


「...中野部長ははご存知ないかも知れませんが開発用のAIユニットソフトウェアを利用すれば短時間で作成可能です。AIが勝手にフレームを作成するので手間も殆どかかりません。実は既に新しいプログラムで構成されたスクウェアクエストのテスト用ベータ版は完成しており、こちらのベータ版で検証した結果、今回不具合に上がったバグは起こっておりません。そしてオリジナルにあった当時のバグは全て排除されます。これについては事前に横田専務を通して中野会長からの承認を得ています。」


神谷の発言を受け、会議中、聞き手に回っていた専務の横田が口を開いた。


「神谷君が言った通り私から会長に相談した。会長は残念がっておられたがユーザーの不利益になるものは改善すべきとのお言葉を頂いた。」


「と、いうわけです。他に何かありますか?中野部長」


「...ありません。ありませんが、ただ、そもそもバグの原因が何故突き止められないのかは疑問に思います。業界トップの我が社のソフト開発部が何故なんでしょうね?神谷部長を始め皆さん大変優秀だと聞いていたのですがね」


「...申し訳ございません。私の力不足で皆さんにはご迷惑をお掛けいたします。原因究明に全力を尽くします」


「尽くす...ではなく成果をお願いしますね」


その後、総務部部長柏木より対応に関しての費用の説明があり、営業部長田畑からは広報部と連携して行う70周年キャンペーンの協賛企業への対応の流れを確認し、会議は終了した。



「お疲れさん、神谷部長」

「お前もな、薮内課長」


会議終了後、神谷と薮内は休憩室で一息ついていた。


「相変わらずお前んとこの部長様は嫌味がお上手なこって」


「褒めるなよ」


「褒めてねーよ」


「でさぁ、神谷。実際の所どうなのよ。バグの原因わかりそうなのか?」


「正直ゆーと、さっぱりわからん。今も内の若い奴らが解析してるわ。とりあえずユーザーへの対応は承認をもらえてるから安心ではあるんだがな」


「ま、すぐに原因見つかるだろ。なんてったってソフト開発部は優秀だって聞いてるから」


「お前、それやめろ」


二人はその後も軽く談笑した後、それぞれの所属部署に戻った。




会議から2週間後、スクウェアクエストの全ユーザーへ向け公式のホームページにてお詫びを掲載し対応として新しいプログラムで構成されたスクウェアクエストのプロダクトコードを送付することを発表した。


バグを全て排除したため一部のマニア層からは改悪だとのクレームが数件上がる程度で、事態は収束したように思われた。

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