第10話

「ロバート!君の言ったとおりだったよ!アルカのセリフが変わった!」


ノックもなしに突然ロバートの部屋に入ってきたダニエルは興奮した様子だった。


ダニエルが部屋に入るとロバートはプログラム言語の羅列されたノートPCのモニターに向かっていた体をダニエルの方に向けた。


「セリフ以外に何か違いは感じられたかい?」


「特には感じなかったよ。君が言ってたようにアルカの最初のセリフ以外は何ら変わることのないスクウェアクエストだった」



ミクスというSNSでつながる友人YAHVEHよりスクウェアクエストのバグについての話を聞いてから、ロバートは自身でもそれを確認しようとノートPCでスクウェアクエストを繰り返しプレイした。


そしてミクスで他のユーザー達が報告しているように5週目の主人公のセリフが変わるというバグを実際に体験した。


プログラム解析をしてみてわかったことはYAHVEHが言う通り面白いということだった。


なぜこのような現象が起きたのか、プログラム上では全く分からない。


解析すればするほど訳が分からず、逆にそれがロバートの興味を深めこの難問の答えを導き出すべく毎日、朝から晩までプログラム言語の羅列と格闘した。


更に不可思議なことは、バグ発生後のプログラムを書き換えた改造データを作成しプレイしてみたがオリジナルのゲームとなんら変化がない。


プログラムの書き換えは出来ているのにゲームをプレイすると書き換わっておらずオリジナルと全く同じ内容だったという不思議な現象が起きていた。


バグ発生前であれば改造データは正しく書き換えたプログラムに沿った進行を行っているにもかかわらずバグ後はそれがなぜかできない。


これは開発元の日本の会社・キューブのプログラマーによるイースターエッグなんだろう。


これはプログラマーからの挑戦状だ。


絶対に答えを導き出してやる。


そしてロバートの挑戦は1ヶ月を過ぎたが一向に進展はなく、ロバートと同じようにプログラム解析に挑戦するミクスのユーザー達もお手上げ状態で開発元にクレームやヒントを求めるメールを送ったとの報告がミクス上で多く見られていた。



「ありがとうロバート。助かったよ。」


最新機種のNS6でも全く同じバグか。

やっぱりハードウェアは関係ないのか。

ミクスにあった報告通りだな。

セルフォンでもPCでもビデオゲーム機でもすべて同じバグが同じタイミングで起こる。


「君のお役に立てて光栄さ!僕もスクウェアクエストを堪能できたしね!ところでバグの原因は突き止められたのかい?」


「それが、さっぱりなんだ。全くと言っていいほどわからないよ。取っ掛かりすらつかめていないんだ」


「それにしては随分楽しそうじゃないか。ほら、今も君は笑顔だ」


「そうなんだ。僕は今すごく楽しいんだよ、ダニエル」


「最高じゃないか!難解な謎に立ち向かうことが楽しいなんて、ロマンだね!それにしても君のような天才でもわからないなんてなかなか厄介だな。敵は強大ってわけだ」


「天才は言い過ぎだと思うけど、そう思ってくれていることは素直に嬉しいよ。ありがとう。」


「どういたしまして!でも本当のところどうなんだろうか?」


「どうって?」


「いや、君をはじめ多くの人間が謎を解き明かせていないなんておかしいじゃないか。素人ながら僕はただのバグなんだろうかと疑問に思ってしまうよ。もしかしたらアベルに命が宿った、なんてね。冗談だよ」


「ダニエルの冗談は、ミクスだと結構話のネタになっているよ。主人公のアベルに自我が芽生えて話し出したんだってね。ここまで原因がさっぱりわからないとなるとオカルト思考に傾いてしまうのはなんとなくわかるけどありえないよ。SFの世界じゃないんだから」


「SFの世界!それはそれで面白そうだ。もしくは神話の世界だね。長い年月を経てスクウェアクエストはツクモガミとなった!ってね」


「ツクモガミ?なんだいそれは?」


「ツクモガミっていうのは日本の神様の事さ。僕が日本の大学に留学している時、そこの大学の教授から教えてもらったのさ。昔の日本人は長い年月がたった道具は霊や魂が宿り神様になると信じられていたそうだよ」


「へぇ、面白いね。じゃあスクウェアクエストにも魂が宿ってしまった?」


「そうだったら僕としてはとても面白いのだけどね。おとぎ話さ」


じゃあ僕はそろそろ寝るよと、ダニエルはロバートの部屋を後にした。

ロバートはダニエルが部屋を出た後、ノートPCのモニターに向かいプログラム言語の羅列を眺めた。


魂が宿る、か...。

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