第9話

今回70周年記念イベントとして無料配信したスクウェアクエストだが当時のままがコンセプト。


当時のままという言葉には当時の不具合も含まれる。


70年前のゲームとはいえ世界的なヒットを叩き出したゲームだから当時のバグについての記録なんかはネットの奥底を探れば今でも掘り起こせる。


もちろん発売元である株式会社キューブには当時のバグの記録が残っている。


しかし、インターネット内のレガシーも会社の記録にも主人公のセリフが変化するバグなんてものは存在しない。





「問題なかった...だぁ?」


スクウェアクエストを吉岡と丸山に改めてバグの解析を命令して3日後、神谷は2人から受けた報告はバグの原因が特定出来なかったとの事だった。


「は、はい、部長。ソフトウェアのプログラムを見直したのですがバグの特定要因は見つかりませんでした。あ、併せてハード機との互換性に関連した不具合の可能性も考えてみたのですが...」


「何も問題なかったっす。プログラムも問題なかったし...部長、やっぱこれホラーっすよ」


「...今すぐデータ持ってこい!」


吉岡は慌てて自分のデスクに戻り神谷のPCにスクウェアクエストのプログラムデータを転送した。


神谷は転送されたデータを開きプログラム言語の羅列に目を通し始めた。

目を通せば通す程、神谷は混乱していった。


該当するバグの気配が目の前のプログラム言語には感じられないからだった。



データ解析を初めた昼前から気が付けば21時を回っていた。

ソフト開発部のスタッフも一部を除き皆、帰宅していた。


眼鏡を外し疲れた目をほぐし、自身のスマートフォンを見た。


そこには丸山がプレイし記念に撮影したスクウェアクエストのバグの画像が映されていた。先日、丸山に神谷が送らせた画像だ。


主人公アルカがゲーム内で初めて話すセリフ。



『わかりました。王様、僕が必ず魔王を倒します』



しかし、神谷のスマートフォンの画像に映る主人公のセリフは違っていた。



『どうして僕が勇者なのか。どうして僕が魔王を倒すのか。わからない・・・わからない・・・』



その後に続く、その他の登場人物や主人公のセリフに一切変化はない。

そこだけが変わっていた。



「わかんねぇってのはこっちのセリフだ。なんなんだよこれは一体...」



神谷は呟き、混乱の中、解析を続けた。

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