第6話

静寂の一室にロバートはいた。


視線の先には椅子に腰掛け机の上に両肘をつき両手にもつペーパーの束を一枚一枚ゆっくりと読む男性。


男性がペーパーを捲る音だけが部屋に響く。


ロバートは緊張した面持ちで、直立不動で男性の前に立ち正面の男性、教授からの言葉を待っていた。


教授はペーパーに視線を置いたまま口を開いた。


「クレメンス君。君は私のところで最後だとの事だか、他の科目の評価はどうだったのかね?」


「Aを頂きました」


「...それは、全ての科目でかね?」


「はい、全ての科目です」


ロバートは緊張しつつもはっきりとした言葉で教授に答えた。


「そうか...」


教授は一言呟き、ペーパーを読み続けた。


数分後、ペーパーを読み終えた教授は両手に持つペーパーの束をゆっくり机に置き正面に立つロバートに視線を向け、微笑んだ。


「私から、君へはAを送ろう。おめでとう。君はオールAを勝ち取った」


その言葉を聞いた瞬間ロバートは嬉しさのあまり叫び出しそうになったがぐっと堪えた。


冷静を装おうとするも耐えきれずニヤつく顔のロバートを見て教授は笑顔を深めた。


「クレメンス君。君は優秀なだけではなく非常に努力家で常に紳士的だった。私は誇らしく思う」


「ありがとうございます、教授」


「今の君は自分の将来の展望を持ち合わせているかね?」


「ええ、教授。僕はゲームクリエイターになりたいと考えています」


「そうか、ゲームクリエイターか...君であればその才能をより活かせる方に...いや、これは非常に利己的な考えだな。君にとってそれはとても大事な事なんだろう。他人がとやかく言う事ではない。頑張りたまえ」


「ありがとうございます」


「ロバート・クレメンス、おめでとう」


「はい!」


教授からA評価を告げられ部屋を後にしたロバートは大学の友人達に結果を告げ、皆、自分の事の様に喜び祝ってくれた。


中には皮肉を言う者もいたが悪い奴ではない事は分かっていた為、苦笑いしつつもありがとうと礼を言った。


大学を後にし自宅に帰るとロバートの父親であり親友でもあるダニエルと母親のキャリーが出迎えてくれ、評価結果がオールAだった事をロバートが2人に伝えると2人とも大いに喜んだ。


「ロバート!君はなんて最高の男なんだ!素晴らしい君へ尊敬と心からの祝福を送るよ。僕は君のような男の父親になれて誇らしいよ!」


「おめでとう、ロバート。貴方ならきっと出来ると信じていたわ。私も貴方が息子でとても誇らしいわ」


「ダニエル、母さん。ありがとう!僕も2人の子供である事をとても幸せに思うよ」


ロバートは本当に2人の子供である事を幸せに感じていた。


ダニエルが父親になってくれた事はロバートにとって非常に大きな事だった。


ゲームやアニメなど悪とされ抑圧されてきた自分の好きという感情を肯定し母親を説得してくれた。


ゲームクリエイターになりたいという夢も真剣に応援してくれている。


父として親友として自分を誇りに思ってくれている。


そして、何より母親キャリーの変化だった。


ロバートの幼少に実の父は亡くなった。


夫を亡くし小さな子供と2人っきりで生きていかざるをえなかったキャリーは強くあろうとしたが、強くあろうとするあまりそれがロバートへの厳しさに繋がっていった。


ロバートは母キャリーを愛していたが同時に怖くもあった。


それがダニエルと出会って変わった。


いつも張り詰めるような緊張感が言動や雰囲気にあったものがなくなり柔らかくなった。


いつしか母親に持つ恐怖の感情はなくなった。


キャリーはよく笑うようになり、幸せそうに笑う母の笑顔にロバートも幸せな気持ちになった。


ロバートは母や自分を幸せにしてくれる父ダニエルとの出会いを神に感謝していた。

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