第7話
ロバートが大学でのオールA評価を勝ち取った日の夕食は母キャリー特製のロブスターブリトーを食べながら家族3人でお祝いをした。
ロバートは父と母と、とても楽しい時間を過ごした。
ロバートは自分は幸運だと思った。
大学では気の合う友人達に囲まれ、自分を理解してくれる親友でもある父親と時々は厳しいが随分と優しくなった母親と過ごせる日々に感謝した。
夕食後ロバートは自室に戻り机のノートPCの電源をいれた。
今日は最高の一日になったが、その幸福感を大切な人達と共有したかった。
ダニエルにもキャリーにも言葉と表情で表し想いは伝えたが、まだ伝えたい相手がロバートにはいた。
ロバートはノートPCからSNSアプリケーション、ミクスを開いた。
ミクスは世界に乱立するソーシャルネットワークの中でも比較的利用者が多いSNSではあるものの人気で便利なSNSは他にもいくつもある。
現に大学の友人達でミクスを利用するものはほとんどいない。
ロバートも大学の友人達とのやりとりはミクスではなくスマートフォンにダウンロードしている世界シェアトップのSNSアプリケーションを利用している。
ロバートがミクスを利用するようになったきっかけは初めてノートPCを母からプレゼントされた数年前だった。
興味本位でいくつかの当時有名だったSNSを利用してみたがしっくりこなかった。
男女の出会いの場となっているものや特定の誰か、何かを口撃する場となっているもの、セレブのゴシップネタの交換をする場になっているものなどが多く、どれもロバートが興味を示すものではなかった。
しかしそんな中たまたま利用したミクスにロバートは惹かれた。
現在では運営会社のシェア拡大の方針によりその特色は薄れつつあるもののロバートが利用を始めた当初、ミクスではマニアックな人種の集いの場であった。
ハッキング技術の討論を行っていたり、データプログラム改造の自慢合戦や映像技術の意見交換などが行われその中にゲームやアニメ、漫画などのサブカルチャーに特化した討論なども行われており、それらの知識欲が刺激されたロバートはミクスを利用し他のユーザーとコミュニケーションをとる事に魅了された。
そして数年利用する中であるユーザーに出会う事となり、その彼、もしくは彼女とのやり取りをする目的がミクスを現在まで利用する理由となっていた。
ロバートは自身のアカウント名【RB】でログインした。
するとログインしてすぐにロバートのアカウントに目的の相手からタイミングよくメッセージが届いた。
目的の相手がログイン状態である事を確認したロバートはダイレクトメッセージボードを開いた。
やぁ、RB。君がそろそろ私にメッセージを送って来る頃かと思ったから先に挨拶をさせてもらったよ。
やぁ、YAHVEH。君は凄いな。僕がミクスにログインした1分後にメッセージを送って来るなんて。もしかして君はニンジャなのかい?今も僕の部屋の天井から僕を覗いている???
ニンジャ!素晴らしいね。そうだったらどれだけ幸せだろう!私には本当にあり得ない話だからこそ憧れてしまう。
幸せと言えば、YAHVEH。僕は今日とても幸せなんだよ。どうしてだかわかるかい?
さては、まさか、オールAだったのかい?
その通り!
素晴らしいな君は!おめでとう!まだ見ぬ友人よ。一度も会ったこともない君だが誇りに思うよ。
光栄だよ。君に誇りに思ってもらえる事で僕にとって今日と言う日はさらに幸せな一日になる事が決まってしまった。
こんな私でも君を幸せに出来るのがとても嬉しいよ。
その後、たわいの無い、しかしとても楽しい会話を続けた。
ロバートはミクスでYAHVEHと出会った。
顔も声も年齢も、性別すら分からない彼もしくは彼女だがロバートにとっては唯一無二の友人だった。
YAHVEHの知識は非常に優れておりロバートは色々な事を学んだ。
特にプログラム技術に関しての知識に造詣が深い。
この友人はもしかすると有名なプログラマーなのかも知れないとロバートは思っていた。
君との話はついつい時間を忘れてしまうよ、RB。まるで明けない夜明けの中で夜更かししているようだよ。
相変わらず君の表現には謎が多いけど僕も気持ちは同じだよ。
さて、そろそろ時間だ。最後に一つ。スクウェアクエストの噂は聞いたかい?
君が示す噂というのは、決まって5週目に主人公のセリフが変化するっていうあのバグの事かい?
やっぱり君も知っていたようだね。今その話題がSNSで少しずつ広まっているようだ。そういう私も試してみたよ。確かに噂通りだった。たった数文字変わる程度の変化なんだけどね。
へぇ、噂は本当だったんだね。どう言ったセリフになったんだい?
それは実際に君も体験してみるといいよ。そしてスクウェアクエストを解析してみるといい。面白いよ。本当に、面白い。
わかった。ありがとう。大学の課題も無事に完了したから挑戦してみるよ。君の面白いを僕も感じてみるよ。
ぜひそうしてみてくれ!今日も楽しかったよ。それではRB、また今度。
ああ、YAHVEH、また今度。
スクウェアクエストが無料配信されてから4ヶ月が経つが最近ミクスの中でスクウェアクエストのあるバグについての話が広がっているのはロバートも知っていた。
5週目の序盤の主人公のセリフの一部が変化するというのだ。
そのバグを見つけた誰かが呟き、それを聞いた他のユーザーも実際に5週目までプレイし、皆同様の症状が発生する事が確認され、どんどんその話が広がっているようだ。
ロバートも実際に5週目までプレイしてみたかったがバグの話を知った時は大学の課題で忙しく、確認できていなかった。
一周するのに約12時間が必要となる。
ロバートは2周目の最中だった。
しかし課題も無事終わった今はスクウェアクエストをプレイする時間が戻っていた。
元々5週も繰り返しスクウェアクエストをするつもりは無かったのだがせっかくだからやってみようかな。
ロバートは友人の勧めを受け取る事にし、スクウェアクエストのプレイを再開する。
...そして、物語が動き出す。
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