第5話
スクウェアクエストの配信から4ヶ月経つがクレームは殆どない。
当時のままの姿のスクウェアクエスト配信を謳い文句にし、ユーザーは当時のバグ込みでソフトを楽しんでいる様だった。
一件だけダウンロードが出来ないとクレームがあったがそれはただ単にその人がプロダクトコードの入手手順を踏んでいないだけだったと広報からは聞いている。
薮内が回してきた問い合わせだがこれも何て事はないただのバグだろう。
バグであっても今回の配信に関しては当時のままがコンセプトだから修正の必要がない為、適当に問い合わせ先に返答して後は無視してもいいのだが...ほんの少し引っかかる。
神谷はフロアを見渡しソフト開発部の一番奥に位置する机に向かった。
向かった先にはPCの前でぼーっとモニターを眺める男性スタッフの姿があり近づいて声を掛けた。
「おい、吉岡。」
「...ん、あ!はい!部長何でしょうか?」
吉岡武史は株式会社キューブが運営するSNSのソーシャルゲームを管理する一員だ。
「暇そうだな」
「す、すいません!」
「ぼーっとしてんじゃねーぞ。まったく。まぁ、いい。暇そうだから仕事を任せる。スクエスのバグチェックしろ」
「えっ?スクウェアクエストのですか...」
吉岡の顔が曇る。
「ああ。問い合わせ来ててな。5週目の主人公の最初のセリフが変化してるって話だ。バグチェッカーにかけて何処の箇所がそれに該当するか特定しろ」
「いや、その、でも...」
「暇だろ?暇じゃなかったらさっきみたいにぼーっとしてないよな。いいからやれ」
「...わかりました」
たった70kb以下のデータソフトだからそんなに時間はかからないがバグチェッカーを使ったとしてもプログラムが低級言語で構成されており特定のバグを見つけ出すのは結構面倒くさい作業になる。
まぁ、ぼーっとしてた罰だな。
神谷は自分のデスクに戻りPCの社内クラウドにアクセスし70周年記念イベントの進捗データを開いた。
70周年記念イベントはスクウェアクエストの無料配信だけでは無く他にも色々と実施されていた。
対象となるゲームソフトに特典をつけたり、抽選で課金アイテムをプレゼントしたりとユーザーに向けた色々な企画を広報部が中心となって行いそこそこ評判もいいと聞く。
ではスクウェアクエストはどうか。
配信キャンペーンの内容としては70周年記念日から一年間受付を行い応募者全員が無料でダウンロード出来るというもの。
配信開始より今でちょうど4ヶ月が経ったが進捗データにはスクウェアクエストの応募者は1892人とある。
全世界で1892人だ。
日本は少子化の問題でゲーム人口は減少傾向にあるが全世界のゲーム人口は増え続けており、現在は40億人とも言われている。
そう考えるといかにこの施策の関心度が低いかがよくわかる。
明らかに失敗だ。
神谷はため息をついた。
翌日、バグチェックを終えた吉岡が報告にきた。
問い合わせがあった様な事象の起因となりえるバグは見つからなかったとの事だ。
報告を聞き神谷はなんとなく違和感を感じたものの、ユーザーの勘違いかはたまた虚言か悪戯か、いずれにしてもこの件で時間を割く事は無駄だと決め、この件は忘れる事にした。
しかし、それから一ヶ月後。
スクウェアクエストに関する問い合わせが殺到する事となる。
見えない何かはゆっくりと少しずつ動き出していた。
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